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小学生でも分かる実用新案法|実用新案法第29条の2・第29条の3 実用新案技術評価書の提示・実用新案権者等の責任 ― 「成績表」を見せてからでないと人を責められない

小学生でもわかる実用新案法:技術評価書の提示(29条の2)

小学生でも分かる実用新案法 / C. 実用新案権の効力・実施権・侵害 #23

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実用新案権は「テストなし」で登録されます。だから、他人に「まねをやめろ」と言う前に、特許庁が作った「成績表」(実用新案技術評価書)を相手に見せて警告しなければなりません(第29条の2)。さらに、警告や権利行使をしたあとで登録が無効になったら、原則として相手の損害を賠償しなければなりません(第29条の3)。この2つは、特許法にはない、実用新案法だけの最重要ルールです。

条文:実用新案法第29条の2、第29条の3関連:第12条・第13条(実用新案技術評価)、第27条第1項(侵害者等)、第37条第1項第6号、第14条の2、特許法第104条の3参照時点:2026年9月

目次

LEVEL 1イメージでつかむ

実用新案は「テストなしで合格」する

特許は、特許庁の審査官が「これは新しいか」「かんたんに思いつくものではないか」をきちんと調べて(=テストをして)から合格させます。ところが実用新案は、書類の形が整っていれば、中身のテストをしないで登録されます。早くて安いかわりに、「本当は合格していないはずのもの」が登録されていることもあるのです。

そこで実用新案法は、こう決めました。人に「まねをやめろ」と言う前に、特許庁に「成績表」を作ってもらって、それを相手に見せなさい。この成績表が実用新案技術評価書(じつようしんあん ぎじゅつ ひょうかしょ)です。

特許 実用新案 出願 → テスト(審査)→ 合格 出願 → テストなし → 登録 そのまま「まねをやめろ」と言える まず「成績表」をもらって 相手に見せて警告する そのあとで「まねをやめろ」と言える (特許にも別のルールはあります)

図は左右にスクロールできます。

凡例
特許のルート
実用新案のルート
実用新案だけに必要な手続(評価書の提示・警告)
実線=必ずこの順番で進む

【図1】特許は「テスト(審査)」に合格してから権利になるが、実用新案は「テストなし」で登録される。そのかわり、実用新案では「成績表」(実用新案技術評価書)を見せて警告してからでないと権利を使えない(実用新案法第29条の2)。※説明の都合上、特許側の手続(出願審査請求など)は省略した。※時間軸は縮尺なし。

成績表が悪かったのに責めたら、あとで自分が責任を取る

成績表を見せて警告したあと、相手をうったえたとします。ところがその後、「この実用新案はそもそも登録してはいけないものだった」と決まって、登録が取り消されたら(=無効になったら)どうなるでしょう。

実用新案法は、「あなたが警告やうったえで相手にあたえた損害を、あなたが賠償(べんしょう)しなさい」と決めています(第29条の3)。テストなしで登録されたものを使って人を責めたのですから、はずれたときの責任は権利者が取る、という考え方です。

ただし、「よい評価」に基づいて権利を使ったときや、じゅうぶん注意して権利を使ったときは、原則として責任を負いません。よい評価をもらっていても、無効になる資料をすでに知っていたなど、特別な事情がある場合は別です。

成績表をもらう (実用新案技術評価書) 「よい評価」に基づき警告 「悪い評価」なのに警告 ○ あとで無効になっても 原則免責(例外あり) × あとで無効になったら 原則、損害を賠償

図は左右にスクロールできます。

凡例
○ 責任を負わない(免責)
× 損害を賠償する
実線=そのまま進む

【図2】成績表(評価書)の中身によって、あとで登録が無効になったときの責任が変わる。よい評価に基づいた場合や、じゅうぶん注意した場合は原則免責。ただし、無効の資料を知っていた等の特別な事情がある場合は別(実用新案法第29条の3第1項ただし書)。※「じゅうぶん注意して権利を使った」ときも責任なし(同ただし書)。※説明の都合上、第37条第1項第6号の理由による無効(対象外)は図に描いていない。

レベル1のまとめ

  • 実用新案は「テストなし」で登録される。だから、人を責める前に「成績表」(実用新案技術評価書)を見せて警告しなければならない(第29条の2)。
  • 警告やうったえのあとで登録が無効になったら、相手にあたえた損害を権利者が賠償する(第29条の3第1項)。
  • 「よい成績表」に基づいたとき、じゅうぶん注意したときは原則として賠償しなくてよい。ただし、無効の資料を知っていた等の特別な事情がある場合は別(ただし書)。

※「よい評価」とはどの条文についての評価か、「無効」にも例外があるかなど、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。


LEVEL 2条文の骨格

第29条の2 ― 評価書を提示して警告した「後でなければ」権利行使できない

実用新案法第29条の2実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない。

ポイントは3つです。①主語は「実用新案権者又は専用実施権者」、②相手は「侵害者等」、③「実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ」権利行使できない、という順番です。

「侵害者等」は第27条第1項で定義されています。

実用新案法第27条第1項実用新案権者又は専用実施権者は、自己の実用新案権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者(以下「侵害者等」という。)に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
要素 第29条の2の定め 根拠
誰が 実用新案権者又は専用実施権者 第29条の2
誰に 侵害者等(侵害する者又は侵害するおそれがある者) 第27条第1項の定義
何を その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を「提示して警告」 第29条の2
いつ 提示して警告をした「後でなければ」 第29条の2
効果 その権利を行使することができない 第29条の2

〔表1〕実用新案法第29条の2の要素分解(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。

「実用新案技術評価書」とは何か(第12条・第13条との接続)

評価書のもとになる「実用新案技術評価」は、第12条第1項で定義されています。評価の対象は「第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第六項」に限られます。つまり、刊行物等に基づく新規性・進歩性、拡大先願、先願だけが評価の対象です。

実用新案法第12条第1項実用新案登録出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に、その実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案に関する技術的な評価であつて、第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第六項の規定に係るもの(以下「実用新案技術評価」という。)を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係る実用新案登録出願又は実用新案登録については、請求項ごとに請求することができる。

評価書が作成されると、特許庁長官はその謄本を請求人(請求人が出願人・権利者でないときは、請求人および出願人・権利者)に送達します(第13条第3項)。第12条・第13条の詳しい内容は、本シリーズの「実用新案法第12条・第13条 実用新案技術評価」の記事を参照してください。

評価の対象になる規定 内容 評価の対象に「ならない」もの(例)
第3条第1項第3号 刊行物に記載された考案・電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった考案(新規性) 第3条第1項第1号・第2号(公然知られた考案・公然実施をされた考案)、第2条の2第2項の補正要件、第5条第4項・第6項の記載要件など(第37条第1項の無効理由ではあるが、評価の対象ではない)
第3条第2項(第1項第3号に係るものに限る) 刊行物等に記載された考案に基づく進歩性
第3条の2 拡大先願
第7条第1項〜第3項・第6項 先願(異日・同日・特許出願との関係・協議不成立)

〔表2〕実用新案技術評価の対象規定(実用新案法第12条第1項)。右列は本記事作成者の整理であり、無効理由と評価対象がずれる点が第29条の3ただし書の理解につながる。

第29条の3 ― 無効審決が確定したときの損害賠償責任

実用新案法第29条の3第1項実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等に対しその権利を行使し、又はその警告をした場合において、実用新案登録を無効にすべき旨の審決(第三十七条第一項第六号に掲げる理由によるものを除く。)が確定したときは、その者は、その権利の行使又はその警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価書の実用新案技術評価(当該実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案が第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第六項の規定により実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除く。)に基づきその権利を行使し、又はその警告をしたとき、その他相当の注意をもつてその権利を行使し、又はその警告をしたときは、この限りでない。
部分 内容(要旨) 補足
本文:要件① 実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等に対し「権利を行使し、又はその警告をした」 訴え提起だけでなく「警告」も含む
本文:要件② 「実用新案登録を無効にすべき旨の審決」が確定した 第37条第1項第6号の理由(後発的理由)によるものは除く
本文:効果 権利行使・警告により「相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる」 相当の注意について権利者側が立証責任を負う(→レベル3)
ただし書① 評価書の評価に「基づき」権利行使・警告したとき ただし「登録をすることができない旨の評価」を受けたものは除く(=否定的評価は免責の根拠にならない)
ただし書② 「その他相当の注意をもつて」権利行使・警告したとき 評価書以外の注意も免責の根拠になりうる

〔表3〕実用新案法第29条の3第1項の構造(要旨)。

権利者(専用実施権者を含む) 特許庁 相手方(侵害者等) 例外(免責される場合)

① 実用新案技術評価書を   請求(第12条第1項) ② 評価書を作成し謄本を   送達(第13条第3項) ③ 評価書を提示して警告   (第29条の2)【必須】 ④ 権利行使(差止請求・   損害賠償請求など) ⑤ 実用新案登録無効審判   を請求(第37条) ⑥ 無効にすべき旨の審決   が確定(第37条第1項   第6号の理由を除く) ⑦ 相手方に与えた損害を   賠償(第29条の3   第1項本文)

例外:原則免責 (第29条の3  第1項ただし書) ・否定的でない評価に  基づく権利行使・警告 ・その他相当の注意を  もって権利行使・警告

任意 免責の条件は図の説明を参照

図は左右にスクロールできます。

凡例
権利者(実用新案権者・専用実施権者)の行為
特許庁の行為
相手方(侵害者等)の行為
実線=必須(評価書の提示・警告=第29条の2)
点線=任意(無効審判の請求、ただし書による免責)
①〜⑦手続の順番

良好な評価でも無効資料をすでに知っていた等の特段の事情があれば免責されず、評価対象外の理由は必要な調査等を含む相当の注意が問題となる(青本1018〜1020頁)。

【図3】警告→権利行使→無効確定→責任の流れを、権利者・特許庁・相手方の3レーンに分けて示したもの(実用新案法第29条の2・第29条の3第1項)。上から下へ時間が流れる。※時間軸は縮尺なし。※実用新案技術評価は「何人も」請求できる(第12条第1項)が、図では権利者が請求する場合を描いた。※説明の都合上、無効審判の審理手続(第38条〜第41条)と、無効審決が確定しなかった場合は省略した。(2026年9月時点)

timeline
    title 第29条の2・第29条の3のタイムライン(例)
    設定登録 : 無審査で登録される
    評価書の請求 : 何人も請求できる(第12条第1項)
    評価書の謄本の送達 : 請求人(権利者)に送達(第13条第3項)
    評価書を提示して警告 : ここより前には権利行使できない(第29条の2)
    権利行使 : 差止請求・損害賠償請求など
    無効審決の確定 : 第37条第1項第6号の理由による場合を除く
    損害賠償責任 : 原則、権利者が相手方の損害を賠償(第29条の3第1項本文)。免責の条件は図の説明を参照

図は左右にスクロールできます。

凡例
上→下時間の進む向き
各段手続の時点(期間の長さは表さない)

【図4】時系列で見た第29条の2・第29条の3(【図3】を1本の時間線にしたもの)。無効審決の確定が「権利行使・警告の後」に来る点が第29条の3の前提。※時間軸は縮尺なし(各手続の間隔は実際の期間を表さない)。※説明の都合上、無効審決が確定しなかった場合と、訂正による第2項の準用(→本文)は省略した。

第29条の3第2項 ― 訂正で「範囲外」になった考案について権利行使した場合

実用新案法第29条の3第2項前項の規定は、実用新案登録出願の願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面についてした第十四条の二第一項又は第七項の訂正により実用新案権の設定の登録の際における実用新案登録請求の範囲に記載された考案の範囲に含まれないこととなつた考案についてその権利を行使し、又はその警告をした場合に準用する。

登録時の請求の範囲を訂正(第14条の2第1項・第7項)で減らした結果、権利行使・警告の対象だった考案が「範囲の外」になった場合も、無効審決が確定した場合と同じように第1項の責任が準用されます。無効と訂正のどちらでも「もともと権利行使できない考案について権利行使していた」ことになるからです。

レベル2のまとめ

  • 第29条の2:実用新案技術評価書を提示して警告した「後でなければ」、侵害者等(第27条第1項)に権利行使できない。
  • 第29条の3第1項:権利行使・警告後に無効審決(第37条第1項第6号の理由によるものを除く)が確定すれば、相手方に与えた損害を賠償する。ただし、否定的でない評価に基づくとき、その他相当の注意をもって行ったときは責任なし。
  • 第29条の3第2項:第14条の2第1項・第7項の訂正で範囲外となった考案について権利行使・警告した場合に第1項を準用。


LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 無審査登録制度の「代償」としての位置づけ

特許庁の「知的財産権制度入門テキスト(2025)」は、実用新案制度が方式要件と基礎的要件のみを審査する無審査主義を採用していること、権利行使の際には評価書を提示して警告した後でなければならないこと、登録が無効になった場合は警告・権利行使によって相手方に与えた損害を賠償する責めを負うことを説明しています(第2節 実用新案制度の概要)。第29条の2・第29条の3は、「実体審査をしない」ことの裏返しとして、権利者側に慎重さを求める規定と整理できます。

観点 特許法 実用新案法
実体審査 あり(審査官が新規性・進歩性等を審査) なし(方式要件・基礎的要件のみ。第6条の2)
権利行使の前提 評価書のような提示要件はない 実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ権利行使できない(第29条の2)
無効審決確定時の権利者の責任 特許法に第29条の3に相当する条文はない(一般法による) 権利行使・警告により相手方に与えた損害を賠償(第29条の3第1項本文)。ただし書あり
無効理由に基づく権利行使の制限 特許法第104条の3(無効にされるべきものと認められるときは権利行使できない) 第30条で特許法第104条の3を準用。第29条の3と併存
過失の推定 特許法第103条 第26条・第30条のいずれも第103条を準用していない(→「実用新案法第29条・第30条」記事)

〔表4〕特許法との対比。「実用新案法に相当条文がない」「特許法を準用している」を条文で区別する(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。

2. 第29条の2の要件整理

論点 条文上の帰結 注意点
誰の評価書か 「その登録実用新案に係る」評価書 請求人は「何人も」(第12条第1項)。権利者自身が請求したものに限られるとは書かれていない
「提示して警告」 評価書の提示と警告の両方が必要 提示だけ・警告だけでは要件を満たさない(条文の文言上)
「権利を行使する」 第29条の2は「権利」を限定していない 差止請求だけでなく損害賠償請求等の権利行使を含む(青本第29条の2・1016〜1017頁)
相手方 侵害者等(第27条第1項) 「侵害するおそれがある者」を含む

〔表5〕第29条の2の要件整理。条文の文言から直接読める範囲で記載。

3. 第29条の3第1項ただし書の読み方(免責の2つの道)

flowchart LR
  subgraph S["第29条の3第1項ただし書:責任を負わない場合"]
    direction TB
    A["道1:評価書の評価に基づき権利行使・警告"] --> A1{"その評価は『登録をすることができない旨の評価』か?"}
    A1 -- "いいえ(否定的でない評価)" --> A2["原則免責。無効資料を知っていた等の特段の事情は別"]
    A1 -- "はい(否定的評価)" --> A3["× 道1では免責されない"]
    B["道2:その他相当の注意をもって権利行使・警告"] --> B1["○ 免責(責任を負わない)"]
  end
  style A2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
  style B1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
  style A3 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

凡例
○ 免責される(責任を負わない)
× その道では免責されない

【図5】ただし書の分岐(免責の2つの道)。「登録をすることができない旨の評価」を受けた評価書に基づく権利行使は、道1の免責を受けられない。※道1で免責されない場合も、道2(相当の注意)を別に主張できる(→〔表6〕)。

ケース 無効審決確定後の責任(第29条の3第1項) 根拠
評価書で第3条第1項第3号等につき「登録できない旨」の評価を受けたのに警告した ただし書①の免責なし。「相当の注意」(ただし書②)を別途立証できなければ賠償責任 ただし書かっこ書
評価書で否定的でない評価を受け、それに基づき警告した 原則として免責。ただし、無効資料をすでに知っていた等の特段の事情がないこと(青本1019頁) ただし書
評価対象外の理由(例:第3条第1項第1号の公知)で無効になった 評価書だけでは対象外の理由を確かめられない。必要な調査・専門家の意見等による相当の注意を権利者側が立証する(青本1019〜1020頁) 第12条第1項・第29条の3第1項
第37条第1項第6号の理由(後発的理由)で無効になった そもそも第29条の3第1項の対象外 第29条の3第1項かっこ書
訂正(第14条の2第1項・第7項)で対象考案が範囲外になった 第1項を準用 第29条の3第2項

〔表6〕ケース別の責任の整理。条文と青本第22版1018〜1020頁を照合した要旨。

根拠資料との照合:第29条の3は、単純な無過失責任ではありません。青本は、通常なら相手方が立証する過失について、その負担を権利者側へ移し、相当の注意を尽くしたことの立証を求めた規定と説明しています。良好な評価を得ても、無効理由となる文献をすでに知っていた等の特段の事情があれば当然には免責されません。文献に現れない公知・公用など評価対象外の事実についても、必要な調査や専門家の意見を得るなど相当の注意が問題となります。青本第22版・第29条の3(冊子1018〜1020頁)。

4. 特許法第104条の3(第30条で準用)との関係

実用新案法第30条は、特許法第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)を実用新案権の侵害に準用しています。したがって、侵害訴訟の中で「無効にされるべきものと認められる」ときは権利行使できません。これは訴訟の中での抗弁です。一方、第29条の3は無効審決が確定した後に、権利者が相手方に負う損害賠償責任を定めるものです。時点も効果も異なります。

特許法第104条の3第1項特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
観点 実用新案法第29条の2 実用新案法第29条の3 特許法第104条の3(第30条準用)
場面 権利行使の「前」 無効審決確定の「後」 侵害訴訟の「中」
内容 評価書提示・警告がなければ権利行使できない 権利者が相手方の損害を賠償 無効にされるべきと認められれば権利行使できない
誰に不利か 権利者(手続的ハードル) 権利者(金銭的責任) 権利者(請求棄却)
実用新案法固有か 固有 固有 特許法の準用

〔表7〕権利行使をめぐる3つの規定の時点と効果。

5. 評価書の実務上の姿(審査基準・ハンドブック)

「特許・実用新案審査基準 第X部 第2章 実用新案技術評価」は、審査官が評価するのは文献公知考案に基づく新規性(第3条第1項第3号)、文献公知考案に基づく進歩性、拡大先願(第3条の2)、先願(第7条第1項から第3項まで及び第6項)の4つであると説明しています。審査ハンドブック附属書C「実用新案技術評価書作成のためのハンドブック」は、評価書に各請求項ごとの評価区分・引用文献・評価理由を記載する旨を定めています。

根拠資料との照合:附属書Cの評価区分は、1=文献等に基づく新規性、2=その文献等に基づく進歩性、3=拡大先願、4=異日出願の先願、5=同日出願の先願に関する否定的評価です。6は、1〜5の否定材料を発見できない場合です。ただし、記載が不明確で有意義な調査ができない場合にも6とされるため、6だけで有効性が保証されるわけではありません。評価理由と調査範囲も読みます。審査ハンドブック附属書C・評価区分(7頁)。

6. 試験での問われ方

試験種別 問われ方の傾向 気をつける点
短答式 「評価書を提示して警告した後でなければ権利行使できない」の主体・相手方・順序の入れ替え。第29条の3のただし書の内容、第37条第1項第6号の除外、第2項の訂正準用 「提示」だけ/「警告」だけで足りるとする枝、「否定的評価に基づけば免責」とする枝に注意
論文式 実用新案権者が警告・提訴した後に無効審決が確定した事例で、相手方の損害賠償請求の可否と免責事由の検討 第29条の3と第30条で準用する特許法第104条の3の場面の違いを書き分ける
口述 「なぜ実用新案法にだけ第29条の2があるのか」(無審査登録制度との関係)、評価の対象規定(第12条第1項) 評価対象と無効理由のずれ(〔表2〕)を説明できるか

〔表8〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

根拠資料との照合:問6の正解は3です。肢3は、技術評価書が作成されていないことが侵害罪の処罰を妨げないとする記述です。第29条の2の提示・警告は民事上の権利行使の前提であり、刑事罰の成立条件とは異なります。 令和8年度の問題/公式解答。肢ごとの説明は条文との照合によるもので、公式解答が示す正解番号と区別しています。
レベル3のまとめ

  • 第29条の2・第29条の3は、無審査登録制度(実体審査なし)の代償として権利者に課される、実用新案法固有の規定。
  • 第29条の3第1項の免責は「否定的でない評価に基づく権利行使・警告」と「その他相当の注意」の2つ。否定的評価(第3条第1項第3号・第2項・第3条の2・第7条第1項〜第3項・第6項による登録不可の評価)に基づく権利行使は免責されない。
  • 第37条第1項第6号の理由による無効は対象外。訂正で範囲外となった考案への権利行使は第2項で準用。
  • 第30条で準用する特許法第104条の3(訴訟中の抗弁)とは場面が異なる。特許法第103条(過失の推定)は準用されていない。

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