小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #35
特許権の譲渡や専用実施権の設定は、特許庁に登録して初めて効力が生じます(登録=効力要件)。一方、通常実施権は登録制度がなく、登録なしで、後から特許権を取得した者にも対抗できます(当然対抗)。第98条と第99条は、この対照的な2つのルールです。
LEVEL 1イメージでつかむ
特許権は「帳簿」で管理されている
特許庁には特許原簿という帳簿があり、誰が特許権者か、誰に専用実施権があるか、質権が付いているかが記録されています。特許権を人に譲ったり、専用実施権を設定したりするときは、この帳簿に登録しなければ効力が生じません。不動産の登記に似ていますが、不動産の登記は「対抗要件」なのに対し、特許の登録は「効力要件」です。登録しなければ、当事者の間でも効力が生じないのです。
【図1】第98条と第99条の対比。
「使わせてもらう約束」は登録がいらない
通常実施権(第78条)は、「使っていいよ」という約束です。昔は登録しないと、特許権が他人に譲られたときに「私は使っていいはずだ」と言えませんでした。でも、実務では登録されることがほとんどなく、実施権者が突然使えなくなるリスクがありました。そこで平成23年改正で、通常実施権は登録しなくても新しい特許権者に対抗できることになりました。
- 特許権の譲渡、専用実施権・質権の設定などは、登録しないと効力が生じない(第98条)。
- 通常実施権は登録なしで、後から特許権を取得した者にも対抗できる(第99条)。
※一般承継の扱い、効力要件と対抗要件の違い、契約上の地位の承継などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。
一
特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限
二
専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
三
特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
2
前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。
| 対象 | 登録が効力要件となる事項 | 登録不要(届出) | 登録不要(当然) |
|---|---|---|---|
| 特許権(第1号) | 移転(特定承継)、信託による変更、放棄による消滅、処分の制限 | 相続その他の一般承継による移転(第2項の届出) | 存続期間満了・特許料不納による消滅など |
| 専用実施権(第2号) | 設定、移転(特定承継)、変更、消滅(混同・特許権の消滅を除く)、処分の制限 | 一般承継による移転 | 混同・特許権の消滅による消滅 |
| 質権(第3号) | 設定、移転(特定承継)、変更、消滅(混同・被担保債権の消滅を除く)、処分の制限 | 一般承継による移転 | 混同・被担保債権の消滅による消滅 |
| 通常実施権 | ―(登録制度なし) | ― | 発生後の特許権・専用実施権の取得者に当然対抗(第99条) |
〔表1〕第98条・第99条の整理。
flowchart TB
A["特許権に関する権利変動"] --> B{"何の変動か"}
B -- "特許権の移転・専用実施権・質権(特定承継)" --> C{"登録したか"}
C -- "した" --> OK["効力発生(第98条第1項)"]
C -- "していない" --> NG["効力を生じない(当事者間でも)"]
B -- "相続・合併などの一般承継" --> D["登録なしで効力発生。遅滞なく届出(第98条第2項)"]
B -- "通常実施権の許諾" --> E["登録制度なし。発生後の特許権取得者等に当然対抗(第99条)"]
style OK fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
style E fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
【図2】権利変動と登録の分岐図。
- 第98条第1項:特許権の移転等、専用実施権、質権の変動は登録が効力要件(一般承継、混同等による消滅を除く)。第2項:一般承継は届出。
- 第99条:通常実施権は発生後の特許権・専用実施権の取得者に登録なしで対抗できる。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 効力要件と対抗要件
| 効力要件(第98条) | 対抗要件(不動産登記など) | 当然対抗(第99条) | |
|---|---|---|---|
| 登録前の当事者間の効力 | 生じない | 生じる | ― |
| 登録前の第三者への主張 | できない(効力自体がない) | できない | 登録なしでできる |
| 二重譲渡 | 先に登録した方だけが権利を取得 | 先に登記した方が優先 | ― |
| 対応する出願段階の規定 | 第34条第4項(出願後の承継は届出が効力要件) | 第34条第1項(出願前の承継は出願が対抗要件) | ― |
〔表2〕効力要件・対抗要件・当然対抗の比較。
2. 平成23年改正 ― 通常実施権の当然対抗
| 改正前 | 現行 | |
|---|---|---|
| 通常実施権の登録 | 登録制度あり。登録が対抗要件(旧第99条第1項) | 登録制度を廃止 |
| 特許権が譲渡されたとき | 未登録の通常実施権者は新特許権者に対抗できず、実施を止められるおそれ | 登録なしで対抗できる(第99条) |
| 仮通常実施権 | 登録が対抗要件 | 同様に当然対抗(第34条の5) |
| 背景 | 通常実施権の登録が実務上ほとんどされておらず、ライセンシーの保護が不十分だった。包括クロスライセンスなど契約内容の開示を嫌う実務にも対応 | |
〔表3〕平成23年改正の要点。
3. 当然対抗の限界 ― 契約上の地位は移転するか
第99条により通常実施権者は新特許権者に「実施を続けてよい」と主張できますが、実施料の支払先、契約の解除条件、独占的通常実施権の独占性など、ライセンス契約上の地位が新特許権者に承継されるかは、条文上明らかでなく、解釈・契約実務に委ねられています。
4. 第98条の各号の細かい除外
| 除外 | 理由 |
|---|---|
| 一般承継による移転 | 相続・合併は法律上当然に権利が移るため。届出のみ(第2項) |
| 混同による専用実施権・質権の消滅 | 専用実施権者が特許権を取得した場合など、権利が一人に帰属して当然に消滅 |
| 特許権の消滅による専用実施権の消滅 | 元の権利が消えれば付随する権利も消える |
| 被担保債権の消滅による質権の消滅 | 質権の付従性 |
〔表4〕第98条第1項各号の括弧書き。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「特許権の譲渡は登録しないと当事者間でも効力を生じないか(生じない)」「相続による移転に登録は必要か(不要、届出)」「通常実施権は登録しないと対抗できないか(登録不要)」「専用実施権の混同による消滅に登録は必要か(不要)」「通常実施権に登録制度はあるか(ない)」 | 〔表1〕〔表4〕 |
| 論文式 | 特許権譲渡の事例で、専用実施権者・通常実施権者の地位を論じさせる | 【図2】〔表2〕 |
| 口述 | 「登録が効力要件となる事項は」「通常実施権の対抗は」 | 第98条第1項、第99条 |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 第98条:登録は「効力要件」。登録前は当事者間でも効力なし。一般承継は届出、混同等による消滅は登録不要。
- 第99条:通常実施権は登録制度なしで当然対抗(平成23年改正)。契約上の地位の承継は解釈問題。
- 出願段階(第34条)との対応:出願前の承継=出願が対抗要件、出願後の承継=届出が効力要件。
