小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #31
特許権者は、自分で実施するだけでなく、他人に実施を許すこともできます。その形は2つ。設定した範囲では特許権者すら実施できなくなる強い「専用実施権」と、単に「使ってよい」という「通常実施権」です。第77条・第78条はその中身と、移転・質権・再許諾のルールを定めています。
LEVEL 1イメージでつかむ
特許を「人に使わせる」
特許権者が自分で商品を作れないこともあります。そんなとき、他の会社に「この発明を使っていいよ」と許すことができます。これを実施権(ライセンス)といいます。使う側は、そのかわりに使用料(実施料)を払います。
実施権には2種類あります。
【図1】専用実施権(貸し切り)と通常実施権(相乗り)。
- 専用実施権:設定した範囲では実施権者だけが使える。特許権者も使えない。登録が必要。
- 通常実施権:使ってよいという地位。複数人に許諾でき、特許権者も使える。
※実施権の移転・質権・再許諾のルール、通常実施権の対抗、独占的通常実施権などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる。
2
専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。
3
専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4
専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができる。
5
第七十三条の規定は、専用実施権に準用する。
特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。
2
通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。
| 専用実施権(第77条) | 通常実施権(第78条・第94条) | |
|---|---|---|
| 発生 | 特許権者が設定(第77条第1項)+登録(第98条第1項第2号:効力要件) | 特許権者(または専用実施権者)が許諾(第78条第1項、第77条第4項)。登録不要。法定・裁定でも発生 |
| 内容 | 設定行為で定めた範囲内で業として実施する権利を専有(第2項) | 法律の規定または設定行為で定めた範囲内で業として実施する権利を有する(第2項) |
| 特許権者の実施 | 設定範囲では不可(第68条ただし書) | 可 |
| 移転 | 実施の事業とともに/特許権者の承諾/一般承継(第3項) | 同じ3類型(第94条第1項)。裁定通常実施権は別(第94条第3項〜第5項) |
| 質権 | 特許権者の承諾(第4項) | 特許権者(+専用実施権者)の承諾(第94条第2項) |
| 再許諾(通常実施権の許諾) | 特許権者の承諾(第4項) | 通常実施権を有するだけでは再許諾権限は生じない。特許権者等による再許諾の授権がある場合を区別 |
| 共有 | 第73条を準用(第5項) | 第73条第1項を準用(第94条第6項) |
| 差止請求権 | あり(第100条第1項「特許権者又は専用実施権者」) | なし(条文上の主体でない) |
〔表1〕専用実施権と通常実施権の比較。第94条・第98条・第100条は各記事で条文確認。
flowchart LR P["特許権者"] -- "設定+登録(第77条第1項、第98条)" --> S["専用実施権者
範囲内で専有"] P -- "許諾(第78条第1項)" --> N1["通常実施権者"] S -- "特許権者の承諾があれば許諾(第77条第4項)" --> N2["通常実施権者(専用実施権についての)"] S -- "承諾があれば質権(第77条第4項)" --> Q1["質権者"] N1 -. "再許諾は不可(一般的理解)" .-> X["×"] style S fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F style N1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
【図2】実施権の設定・許諾の相関図。
- 専用実施権:設定+登録で発生、範囲内で専有、移転は3類型、質権・再許諾は特許権者の承諾、共有規定を準用。
- 通常実施権:許諾で発生(登録不要)、範囲内で実施できる地位、移転・質権は第94条。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 通常実施権の「発生原因」による分類
| 種類 | 発生原因 | 条文 | 移転の特則(第94条) |
|---|---|---|---|
| 許諾による通常実施権 | 特許権者・専用実施権者の許諾(契約) | 第78条、第77条第4項 | 事業とともに/承諾/一般承継(第1項) |
| 法定通常実施権 | 法律の規定により当然に発生 | 第35条第1項、第79条、第79条の2、第80条、第81条、第82条、第176条など | 第1項が適用(事業とともに等) |
| 裁定通常実施権 | 特許庁長官・経済産業大臣の裁定 | 第83条、第92条、第93条 | 第83・93条は事業とともに(第3項)。第92条第3項は権利と事業とともに(第4項)、逆裁定は権利に従う(第5項) |
〔表2〕通常実施権の3分類。第78条第2項の「この法律の規定により」が法定・裁定を指す。
2. 登録と対抗(第98条・第99条)
| 専用実施権 | 通常実施権 | |
|---|---|---|
| 登録の位置づけ | 設定・移転(一般承継を除く)・変更・消滅(混同・特許権の消滅を除く)・処分の制限は登録が効力要件(第98条第1項第2号) | 登録制度なし(平成23年改正で廃止)。登録なしで、その後に特許権・専用実施権を取得した者に対抗できる(第99条:当然対抗) |
| 特許権が譲渡されたら | 登録されているので新特許権者に対抗できる | 当然対抗により新特許権者に対抗できる(実施料の支払先等の契約上の地位の承継は解釈問題) |
〔表3〕登録と対抗。第98条・第99条の詳細は登録の効果の記事で扱う。
3. 独占的通常実施権
契約で「他の者には許諾しない」と約束した通常実施権を独占的通常実施権と呼びます。条文上の制度ではなく、通常実施権の一種です。特許権者が約束に反して第三者に許諾すれば債務不履行ですが、独占的通常実施権者自身は第100条の差止請求はできず(条文上の主体でない)、損害賠償請求については裁判例上認められる場合があります。
4. 専用実施権と通常実施権の使い分け(実務の観点)
| 観点 | 専用実施権 | 通常実施権(独占的を含む) |
|---|---|---|
| 実施権者の立場 | 強い(自ら差止め可、特許権者も排除) | 固有の差止請求権はない。契約内容により代位行使が認められる場合は別 |
| 特許権者の立場 | 設定範囲では自己実施不可。第123条第4項の通知対象は専用実施権者等 | 柔軟(複数許諾、自己実施可) |
| 手続 | 登録が必要(登録免許税) | 契約のみ |
| 訂正審判・放棄 | 専用実施権者の承諾が必要(第127条、第97条第1項) | 通常実施権者の承諾は法定要件ではない。専用実施権者・質権者の承諾が必要(第127条、第97条第1項) |
〔表4〕使い分けの観点。現行第97条・第127条では、通常実施権者の承諾を法定要件としていない。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「専用実施権者は特許権者の承諾なく通常実施権を許諾できるか(不可)」「専用実施権の移転に承諾は必要か(事業とともに・一般承継は不要)」「通常実施権者は差止請求できるか(不可)」「通常実施権の登録は対抗要件か(登録制度なし、当然対抗)」「専用実施権の設定に登録は必要か(効力要件)」 | 〔表1〕〔表3〕 |
| 論文式 | ライセンス契約の事例で、実施権の種類ごとの地位と、特許権譲渡・侵害時の対応を論じさせる | 【図2】〔表2〕 |
| 口述 | 「専用実施権と通常実施権の違いは」 | 〔表1〕 |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 専用実施権=設定+登録、範囲内で専有、差止め可。通常実施権=許諾・法定・裁定、実施できる地位、差止め不可、登録制度なしで当然対抗。
- 移転は「事業とともに/承諾/一般承継」の3類型が共通。裁定通常実施権は事業とともにのみ、または特許権に従う。
- 専用実施権者の再許諾・質権は特許権者の承諾。独占的通常実施権は契約上の独占で、条文上の制度ではない。
