MENU

小学生でも分かる特許法|特許法第65条 補償金請求権 ― 公開されてから特許になるまでの「すき間」を埋める権利

小学生でもわかる特許法:補償金請求権(特許法第65条)

小学生でも分かる特許法 / B. 出願・審査の手続 #23

PR この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

出願公開されると発明は誰でも見られるのに、特許権はまだありません。その間にまねをされても差止めはできません。第65条は、この「すき間」の期間の実施に対して、特許になった後で「補償金」を請求できるようにする規定です。

条文:特許法第65条(第1項〜第6項)関連:第64条(出願公開)、第66条(設定登録)、第68条(特許権の効力)参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

公開されたのに、まだ特許じゃない

出願公開(第64条)の記事で、出願から1年6か月で発明がみんなに見えるようになる、という話をしました。ところが、特許権が生まれるのは、審査に合格して登録されたときです。つまり、公開されてから登録されるまでの間は、発明は見えているのに、特許権はまだない、という状態になります。

この間に、公開された発明をまねして商売する人が出てきたら? 出願人は「やめて」と言えません(特許権がないから)。それでは、公開させられた出願人が損をします。

出願 出願公開 発明が見える 設定登録 特許権が生まれる すき間:まだ差止めできない ここでまねされたら… 警告等の条件を満たせば補償金 すき間の期間の分を、後からお金で埋める(差止めはできない)

【図1】補償金請求権のイメージ。公開から登録までの「すき間」の実施に対し、登録後にお金を請求できる。

「警告」してから、「登録」の後で請求

そこで第65条は、出願人が「これは私が出願した発明です」と警告した後に、業としてその発明を実施した人に対して、特許になった後で、使用料に相当するお金(補償金)を請求できる、と決めています。差止め(やめさせること)はできません。お金だけです。

レベル1のまとめ
  • 出願公開から設定登録までの「すき間」の実施に対して、登録後に補償金(使用料相当額)を請求できる。
  • 原則として、事前に警告しておく必要がある。差止めはできない。

※警告なしでも請求できる場合、請求権がなくなる場合、金額の決め方などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

条文を読む ― 第1項・第2項

特許法第65条第1項(原文) 特許出願人は、出願公開があつた後に特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対し、その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。当該警告をしない場合においても、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知つて特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、同様とする。
特許法第65条第2項(原文) 前項の規定による請求権は、特許権の設定の登録があつた後でなければ、行使することができない。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
部品内容
だれが特許出願人
いつから出願公開があった後
何をして発明の内容を記載した書面を提示して警告(第1項前段)/警告がなくても相手が知っていた場合(第1項後段:悪意者)
だれに警告後(または悪意で)、設定登録前に、業としてその発明を実施した者
何をその発明が特許発明であった場合に受けるべき金銭の額に相当する額の補償金(実施料相当額)
いつ行使できるか特許権の設定登録があった後(第2項)

〔表1〕第65条第1項・第2項の分解。

第3項〜第6項

項内容(要旨)
第3項仮専用実施権者・仮通常実施権者が設定行為で定めた範囲内で実施した場合には、補償金を請求できない
第4項補償金請求権の行使は、特許権の行使を妨げない(登録後の実施には特許権に基づく差止め・損害賠償)
第5項出願公開後に出願が放棄・取下げ・却下されたとき、拒絶査定・審決が確定したとき、特許権が初めから存在しなかったものとみなされたとき(第112条第6項。回復した場合を除く)、取消決定が確定したとき(第114条第2項)、無効審決が確定したとき(第125条ただし書の場合を除く)は、請求権は初めから生じなかったものとみなす
第6項第101条(間接侵害)、第104条〜第104条の3、第105条〜第105条の2の12、第105条の4〜第105条の7、第168条第3項〜第6項、民法第719条・第724条を準用。消滅時効の起算点は、登録前に実施の事実と実施者を知っていたときは「特許権の設定の登録の日」

〔表2〕第65条第3項〜第6項(e-Gov、2026年9月参照、要旨)。

flowchart TB
  A["出願公開"] --> B{"出願人が発明の内容を記載した
書面を提示して警告したか"} B -- "した" --> C["警告後〜設定登録前の
業としての実施が対象"] B -- "していない" --> D{"実施者は、公開された出願に係る
発明であることを知っていたか"} D -- "知っていた(悪意)" --> C2["知った後〜設定登録前の
業としての実施が対象"] D -- "知らなかった" --> N["請求できない"] C --> E["特許権の設定登録"] C2 --> E E --> F["第3項の除外等がなければ登録後に行使可
実施料相当額(第2項)"] E -. "取下げ等/第5項列挙の取消・無効等(除外あり)" .-> G["第5項の条件を満たすと初めから不発生
通常の期間満了だけでは不発生にならない"] style F fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style N fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F style G fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

【図2】補償金請求権の成立と行使の分岐図。

レベル2のまとめ
  • 要件:出願公開後の警告(または実施者の悪意)+登録前の業としての実施。効果:実施料相当額の補償金。行使は設定登録後。
  • 仮実施権者の実施には請求できない(第3項)。特許権の行使とは別(第4項)。
  • 登録に至らなかった場合・登録後に遡って消滅した場合は、第5項の条件を満たすと初めから不発生
    通常の期間満了だけでは不発生にならない。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 「警告」の意味と、補正があった場合

論点整理
警告の方式「特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して」行う。口頭では足りない
警告の相手業として発明を実施する者(実施している者、しようとしている者)
警告後に補正で請求項が変わった場合旧実用新案のアースベルト判決は、当初の記載範囲内の減縮で実施品が補正前後とも範囲に属するときは再警告等を不要とした。拡張・変更により初めて範囲に入る場合と区別する

〔表3〕警告に関する論点。

根拠と補足:最高裁昭和63年7月19日(昭和61年(オ)第30号・第31号)は、旧実用新案法の補償金に関する判決です。警告前後の考案と実施品の関係を区別し、減縮後も実施品が範囲に含まれ、当初の警告で内容を知っていた場合には再警告を要しないとしました。一方、補正により初めて範囲に入った場合は、再警告またはその内容の知得が必要です。出典:アースベルト判決・6〜7頁。

2. 補償金の額 ― 「実施料相当額」

条文は「その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」と定めています。損害賠償ではなく、実施料相当額です。第6項で第102条(損害額の推定)は準用されていないため、第102条第1項・第2項の推定は使えません。第102条第3項(実施料相当額)と同水準の考え方になります。

補償金請求権(第65条)特許権侵害の損害賠償(民法第709条・第102条)
対象期間出願公開(警告)後〜設定登録前設定登録後
金額実施料相当額逸失利益・侵害者利益・実施料相当額(第102条の推定あり)
差止め不可可(第100条)
過失の推定(第103条)準用なし(第6項に第103条は含まれない)あり
行使時期設定登録後侵害後いつでも

〔表4〕補償金請求権と損害賠償請求権の比較。第6項の準用一覧に第102条・第103条が含まれないことは条文で確認済み(e-Gov、2026年9月参照)。

3. 第5項 ― 初めから生じなかったものとみなす場合

事由意味
出願公開後の放棄・取下げ・却下登録に至らない
拒絶査定・拒絶審決の確定登録に至らない
第112条第6項により特許権が初めから存在しなかったものとみなされた(追納期間内に特許料未納)ただし第112条の2第2項で回復した場合を除く
第114条第2項の取消決定の確定(特許異議の申立て)特許権は初めから存在しなかったものとみなされる
無効審決の確定(第125条ただし書=後発的無効理由の場合を除く)後発的無効(第123条第1項第7号)の場合は、無効理由が生じた時からの消滅なので、それ以前の補償金請求権は残る

〔表5〕第65条第5項の事由。

根拠と補足:第65条第5項の「初めから生じなかった」扱いは列挙された場合に限られます。特許料の追納・回復に係る第112条第6項と第112条の2第2項には除外があり、取消決定の確定(第114条第2項)と無効審決の確定も区別します。後発的無効によりその事由の発生時から無効となる第125条ただし書の場合は、この擬制の対象外です。通常の存続期間満了だけで補償金請求権が初めからなくなるわけではありません。出典:特許法(第65条第5項、第112条第6項、第112条の2第2項、第114条第2項、第125条)。

4. 第6項の準用 ― 何が使えて何が使えないか

準用される規定内容
第101条間接侵害(専用品の生産・譲渡等)も「実施」と同様に扱う
第104条生産方法の推定
第104条の2・第104条の3具体的態様の明示義務、権利行使の制限(無効理由がある場合の抗弁)
第105条〜第105条の2の12、第105条の4〜第105条の7書類提出命令、査証、秘密保持命令など訴訟手続の特則
第168条第3項〜第6項訴訟と審判の関係(通知・書面の送付等)
民法第719条・第724条共同不法行為、消滅時効(3年/20年)。起算点の読み替えあり

〔表6〕第65条第6項の準用規定(e-Gov、2026年9月参照)。第102条・第103条・第100条は含まれない。

消滅時効の起算点の読み替え民法第724条第1号の「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」は、請求権者が設定登録前に実施の事実と実施者を知っていたときは「特許権の設定の登録の日」と読み替えられます。登録前は行使できない(第2項)ので、登録前から時効が進むのは不合理だからです。

5. 国際特許出願の場合

国際特許出願(PCT)では、出願公開に代えて国際公開(外国語でされた国際出願は国内公表)が基準になります。外国語でされた国際特許出願については、国内公表前でも翻訳文を提示して警告すれば補償金請求権が生じます。

根拠と補足:国際出願の補償金は、日本語特許出願では国際公開後、外国語特許出願では国内公表後の警告またはその公開・公表を知った実施が対象です。行使は特許権の設定登録後に限られ、第65条第2〜6項が準用されます。出典:特許法(第184条の10)。

6. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「警告なしでも請求できる場合」「登録前に行使できるか」「差止めできるか」「第102条の推定は使えるか」「無効審決確定で請求権はどうなるか(後発的無効の例外)」「仮通常実施権者への請求」〔表1〕〔表4〕〔表5〕。第6項の準用に第100条・第102条・第103条がない
論文式出願公開→警告→補正→登録のタイムラインで、補償金請求の可否と範囲を論じさせる。アースベルト事件の論点【図2】と〔表3〕
口述「補償金請求権の要件は」「行使できる時期は」〔表1〕

〔表7〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

過去問との対応:令和8年度短答式試験について、特許・実用新案の問1〜20を照合した範囲では、第65条を直接の論点とする肢はありません。 出典:公式問題・特許/実用新案の部、公式正解。公式正解は問題単位の番号です。個々の肢の論点説明は条文との照合によります。
レベル3のまとめ
  • 要件は「公開後の書面による警告(または悪意)+登録前の業としての実施」。効果は実施料相当額。行使は登録後。差止め不可、第102条・第103条の準用なし。
  • 第5項:登録に至らない・遡って消滅する場合は初めから生じなかったものとみなす。後発的無効は例外。
  • 第6項:第101条・第104条〜第105条の7・第168条・民法第719条・第724条を準用。時効の起算点は登録日に読み替え。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人