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小学生でも分かる実用新案法|実用新案法第29条・第30条 損害額の推定・特許法の準用 ― 「いくら損をしたか」の計算ルールと、裁判で借りてくる特許法の条文

小学生でもわかる実用新案法:損害額の推定(29条30条)

小学生でも分かる実用新案法 / C. 実用新案権の効力・実施権・侵害 #24

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実用新案権を勝手に使われたとき、「損害はいくらか」を証明するのはとても大変です。実用新案法第29条は、その計算を助ける3つの方法(譲渡数量×単位利益、侵害者の利益、実施料相当額)を定めています。第30条は、裁判での主張・証拠・秘密保持などのルールを特許法から「準用」(借りてくること)します。ただし、特許法第103条(過失の推定)と第104条(生産方法の推定)は借りてきていません。この「借りていないもの」が実用新案法らしさのポイントです。

条文:実用新案法第29条、第30条関連:実用新案法第26条、第29条の2、第29条の3、第14条の2/特許法第102条〜第104条の4、第105条の3参照時点:2026年9月

目次

LEVEL 1イメージでつかむ

まねされたら、いくら損をしたの?

たとえば、あなたが「とても使いやすい筆箱」を考えて、実用新案権(じつようしんあんけん)をもっているとします。ところが、となりのクラスの人がそっくりな筆箱を作って、文化祭で100個売ってしまいました。

あなたは「損(そん)をした! お金をはらって!」と言いたい。でも、裁判所(さいばんしょ)では「いくら損をしたのか」を自分で証明しなければなりません。これがとてもむずかしいのです。「もし相手が売っていなかったら、自分は何個売れていたか」なんて、だれにも正確には分からないからです。

そこで実用新案法第29条は、「損の金額」を計算するための3つのものさしを用意しています。

「いくら損をしたか」を計算する3つのものさし(実用新案法第29条) ものさし①(第1項) 相手が売った数 × 自分の1個あたりのもうけ 例:100個×200円 =20,000円 ものさし②(第2項) 相手がもうけたお金を そのまま「自分の損」と みなしてもらう(推定) 例:相手のもうけ 15,000円=自分の損 ものさし③(第3項) 「使わせてあげる料金」 (実施料)と同じ額を 最低ラインとして請求 例:1個50円×100個 =5,000円 どれも「証明のむずかしさ」を軽くするための計算ルール。金額は説明のための例です。 ③も相手の故意又は過失が必要。その額を超える損害も請求できる(第5項)。

図は左右にスクロールできます。

凡例
ものさし①(第1項)逸失利益型
ものさし②(第2項)侵害者の利益=損害と推定
ものさし③(第3項)実施料相当額
①②③説明のための番号(条文の号ではない)

【図1】実用新案法第29条が用意する3つの計算のものさし。①相手の販売数×自分の単位利益(第1項)、②相手の利益=自分の損害と推定(第2項)、③実施料相当額(第3項)。※金額はすべて説明のための例であり、条文・出典に基づく数値ではない。※説明の都合上、第1項第2号の上乗せ・第4項・第5項の細目は省略した(→〔表1〕)。(2026年9月時点)

「わざと」か「不注意」かは、自分で証明する

お金をはらってもらうには、相手が「わざと(故意)」か「不注意(過失)」でまねしたことが必要です。特許の世界では、「特許権をおかした人は、不注意があったものと推定する」というルール(特許法第103条)があって、特許権者は楽ができます。

ところが、実用新案法はこのルールを借りてきていません。実用新案は、特許庁が中身をくわしく調べないまま登録される(無審査)しくみです。そのことと関係があると説明されることが多いのですが、条文そのものに理由は書かれていません(→レベル3)。はっきりしているのは、実用新案権者は「相手に不注意があった」ことも自分で示さなければならない、ということです。

裁判のルールは特許法から「借りてくる」

裁判では、「相手に証拠の書類を出させる」「秘密を守らせる」など、こまかいルールがたくさん必要です。実用新案法は、それを全部自分で書くかわりに、「特許法の第○条から第○条までを、実用新案にも使う」と書いています。これを準用(じゅんよう)といいます。第30条がその「借りてくるリスト」です。

レベル1のまとめ

  • 実用新案権をまねされたとき、「損の金額」を計算する3つのものさしがある(実用新案法第29条)。
  • 相手の「わざと・不注意」は、実用新案権者が自分で証明する。特許法の「不注意の推定」(特許法第103条)は借りてきていない。
  • 裁判のこまかいルールは、特許法から借りてくる(準用、実用新案法第30条)。

※ものさし①には「自分が作れる数まで」などの上限があり、借りてくる条文にもいくつかの「借りていないもの」があります。正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。


LEVEL 2条文の骨格

第29条の5つの項

項 内容(要旨) 性質
第1項 侵害者が侵害品(物品)を譲渡したときは、第1号と第2号の合計額を損害の額とすることができる 損害額の算定方法(権利者が選べる)
第1項第1号 権利者が販売できたはずの物品の単位数量当たりの利益額×譲渡数量(ただし権利者の実施相応数量を超えない部分。販売できない事情がある数量=特定数量は控除) 逸失利益型
第1項第2号 実施相応数量を超える数量や特定数量がある場合は、その数量に応じた実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額(ライセンスをし得たと認められない場合は除く) 実施料相当額型(第1号の上乗せ)
第2項 侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額を権利者の損害の額と推定する 推定規定
第3項 登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として賠償請求できる 故意又は過失を前提とする実施料相当額
第4項 裁判所が第1項第2号・第3項の額を認定するとき、「侵害があったことを前提として合意するとしたならば得られる対価」を考慮できる 認定の考慮要素
第5項 第3項は、それを超える損害の賠償請求を妨げない。侵害者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は賠償額を定めるについてこれを参酌できる 第3項の補足

〔表1〕実用新案法第29条の項ごとの内容(e-Gov法令検索、2026年9月参照、要旨)。「することができる」「推定する」「考慮することができる」の語尾の違いに注意。

実用新案法第29条第1項(柱書)実用新案権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の実用新案権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、実用新案権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
実用新案法第29条第1項第1号実用新案権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額に、自己の実用新案権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物品の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該実用新案権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該実用新案権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
実用新案法第29条第1項第2号譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(実用新案権者又は専用実施権者が、当該実用新案権の実用新案権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該実用新案権又は専用実施権に係る登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
実用新案法第29条第2項実用新案権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の実用新案権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、実用新案権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
実用新案法第29条第3項実用新案権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の実用新案権又は専用実施権を侵害した者に対し、その登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
実用新案法第29条第4項裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、実用新案権者又は専用実施権者が、自己の実用新案権又は専用実施権に係る登録実用新案の実施の対価について、当該実用新案権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該実用新案権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該実用新案権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
実用新案法第29条第5項第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、実用新案権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

第1項の計算を図で追う

flowchart TB
  A["侵害者が譲渡した物品の数量 = 譲渡数量"] --> B{"権利者の実施の能力に応じた数量
(実施相応数量)を超えるか?"} B -- "超えない部分" --> C["単位数量当たりの利益の額 × その数量
(第1号)"] B -- "超える数量" --> D["実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
(第2号)"] A --> E{"権利者が販売できないとする
事情に相当する数量(特定数量)はあるか?"} E -- "ある" --> F["第1号の数量から控除"] F --> D C --> G["合計額 = 損害の額とすることができる(第1項柱書)"] D --> G H["× ライセンスをし得たと認められない場合は第2号の対象外"] -.-> D style C fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style D fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F style G fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F style H fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

凡例
第1号(単位数量当たりの利益×数量)
第2号(実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額)
合計額・除外の注記
実線=計算の流れ
点線=除外(そこに当たると第2号の対象から外れる)

【図2】実用新案法第29条第1項の計算の流れ。第1号(単位利益×数量)と第2号(実施料相当額)を合計する。※説明の都合上、第4項(認定の考慮要素)・第5項は図に描いていない(→〔表1〕)。

第30条 ― 特許法から借りてくる条文リスト

実用新案法第30条特許法第百四条の二から第百五条まで(具体的態様の明示義務、特許権者等の権利行使の制限、主張の制限及び書類の提出等)及び第百五条の二の十一から第百六条まで(第三者の意見、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し、訴訟記録の閲覧等の請求の通知等、当事者尋問等の公開停止及び信用回復の措置)の規定は、実用新案権又は専用実施権の侵害に準用する。この場合において、同法第百四条の四中「次に掲げる決定又は審決が確定した」とあるのは「第一号に掲げる審決が確定した又は第三号に掲げる訂正があつた」と、「当該決定又は審決が確定した」とあるのは「当該審決が確定した又は訂正があつた」と、同条第三号中「訂正をすべき旨の決定又は審決」とあるのは「実用新案法第十四条の二第一項又は第七項の訂正」と読み替えるものとする。
準用される特許法の条文 見出し(第30条の括弧書きより) ひとことで
第104条の2 具体的態様の明示義務 「侵害していない」と言うなら、自分の物の具体的な作り方・構造を明らかにする
第104条の3 特許権者等の権利行使の制限 無効にされるべき権利なら、裁判所で権利行使できない(無効の抗弁)
第104条の4 主張の制限 判決確定後に無効審決等が確定しても、再審でそれを主張できない(読替えあり)
第105条 書類の提出等 侵害の立証・損害計算に必要な書類の提出命令
第105条の2の11 第三者の意見 裁判所が広く第三者から意見を募る
第105条の2の12 損害計算のための鑑定 損害計算のため鑑定人に説明する義務
第105条の3 相当な損害額の認定 損害額の立証が極めて困難なとき、裁判所が相当な額を認定
第105条の4 秘密保持命令 営業秘密を裁判の外で使わせない命令
第105条の5 秘密保持命令の取消し その取消し
第105条の6 訴訟記録の閲覧等の請求の通知等 秘密部分の閲覧請求があったときの通知など
第105条の7 当事者尋問等の公開停止 営業秘密に関する尋問を非公開にできる
第106条 信用回復の措置 謝罪広告など信用回復のための措置

〔表2〕実用新案法第30条が準用する特許法の条文リスト(準用マップ①)。見出しは第30条の括弧書きのとおり。「ひとことで」欄は本記事作成者による要約。

根拠資料との照合:現行特許法で、105条の2の11は第三者の意見、105条の2の12は損害計算のための鑑定、105条の3は相当な損害額の認定、105条の4は秘密保持命令、105条の5はその取消し、105条の6は訴訟記録の閲覧等の請求の通知等、105条の7は当事者尋問等の公開停止です。第30条の準用範囲と各条の本文を照合しています。特許法第105条の2の11〜第105条の7。
レベル2のまとめ

  • 実用新案法第29条:第1項(譲渡数量×単位利益+実施料相当額の合計)、第2項(侵害者の利益=損害と推定)、第3項(実施料相当額の請求)、第4項(認定の考慮要素)、第5項(第3項を超える請求可・軽過失の参酌)。
  • 実用新案法第30条:特許法第104条の2〜第105条、第105条の2の11〜第106条を準用。第104条の4のみ読替えがある。
  • 準用リストに特許法第103条(過失の推定)と第104条(生産方法の推定)は入っていない。


LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 特許法第102条との対比 ― 同じ構造で、言葉だけ違う

実用新案法第29条は、特許法第102条と項の構成・語尾・考慮要素まで同じ構造です。違うのは「特許権/実用新案権」「特許発明/登録実用新案」といった言葉の置き換えと、第1項の対象が「物」ではなく「物品」である点です(実用新案は「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」を対象とするため)。

項 特許法第102条 実用新案法第29条 相違点
第1項柱書 「その侵害の行為を組成した物を譲渡したとき」 「その侵害の行為を組成した物品を譲渡したとき」 「物」→「物品」
第1項第1号 「販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」「譲渡した物の数量」 「販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額」「譲渡した物品の数量」 「物」→「物品」。実施相応数量・特定数量の仕組みは同一
第1項第2号 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」 「登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」 用語のみ
第2項 侵害者の利益の額を損害の額と「推定する」 同じ 用語のみ
第3項 「特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」を請求できる 「登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」を請求できる 用語のみ
第4項 侵害を前提とした合意対価を「考慮することができる」 同じ 用語のみ
第5項 第3項超の請求可・故意又は重大な過失がなければ参酌可 同じ 用語のみ

〔表3〕特許法第102条と実用新案法第29条の対比(いずれもe-Gov法令検索、2026年9月参照)。特許法第102条の解説は関連記事「特許法第102条〜第104条」に譲る。

特許法第102条第1項(柱書)特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。

2. 準用マップ ― 第26条(権利の効力)と第30条(侵害訴訟)

実用新案法は、特許法を2つの入口から準用しています。第26条は「実用新案権」そのものに関する規定(効力の制限、共有、法定通常実施権など)を準用し、第30条は「実用新案権又は専用実施権の侵害」に関する訴訟手続の規定を準用します。

実用新案法第26条特許法第六十九条第一項及び第二項、第七十条から第七十一条の二まで(特許権の効力が及ばない範囲及び特許発明の技術的範囲)、第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第七十九条(先使用による通常実施権)、第七十九条の二(特許権の移転の登録前の実施による通常実施権)、第八十一条、第八十二条(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、実用新案権に準用する。
特許法(第100条〜第106条) 実用新案法での扱い

第100条差止請求権 実用新案法第27条自前で規定(本記事の範囲外・別記事)

第101条侵害とみなす行為 実用新案法第28条自前で規定(本記事の範囲外・別記事)

第102条損害の額の推定等 実用新案法第29条自前で規定(同じ5項構造)

第103条過失の推定 × 準用なし第26条・第30条のどちらの列挙にもない ×

第104条生産方法の推定 × 準用なし方法の考案がなく、推定の対象がない ×

第104条の2〜第105条具体的態様の明示義務〜書類の提出等 実用新案法第30条で準用第104条の4は読替えあり

第105条の2〜第105条の2の10査証 × 準用なし第30条は「第百五条の二の十一から」と規定 ×

第105条の2の11〜第106条第三者の意見〜信用回復の措置 実用新案法第30条で準用読替えの定めなし

図は左右にスクロールできます。

凡例
実線=実用新案法が自前で規定している(準用ではない)
実線=実用新案法第30条で準用する
点線の箱=準用も自前の規定もない
実線の矢印=対応する規定がある
点線の矢印=対応する規定がない
×準用なしの印

【図3】準用マップ②。特許法第100条〜第106条の各条が、実用新案法では「自前で規定」「第30条で準用」「準用なし」のどれに当たるかを、左右の段をそろえて示す。点線+×が準用も自前の規定もないもの(第103条・第104条・査証)。準用の有無は実用新案法第26条・第30条の列挙をそのまま確認した結果(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。※第104条の4の読替えの内容は【図5】と〔表5〕を参照。※実用新案法固有の第29条の2・第29条の3は、対応する特許法の条文がないため図に描いていない(→〔表6〕)。

特許法の条文 実用新案法での扱い 根拠
第102条(損害の額の推定等) 準用ではなく、実用新案法第29条として同じ構造の条文を自前で規定 実用新案法第29条
第103条(過失の推定) 準用なし。第26条の準用リストにも第30条の準用リストにも挙げられていない 実用新案法第26条・第30条の列挙にない
第104条(生産方法の推定) 準用なし。実用新案法は「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」を保護対象とし、「物を生産する方法」の考案がないため、推定の対象が存在しない 実用新案法第30条の列挙にない
第104条の2〜第105条 準用(第104条の4は読替え) 実用新案法第30条
第105条の2〜第105条の2の10(査証) 準用なし。第30条は「第百五条の二の十一から」と規定しており、その前の査証に関する条文は範囲外 実用新案法第30条の文言
第105条の2の11〜第106条 準用 実用新案法第30条

〔表4〕準用マップ③。特許法第102条〜第106条の「準用の有無」一覧。準用の有無は実用新案法第26条・第30条の列挙をそのまま確認した結果。

3. 準用されていない特許法第103条(過失の推定)の意味

特許法第103条他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

実用新案法第26条と第30条の準用リストをどちらも見ても、特許法第103条は挙げられていません。したがって、条文上、実用新案権の侵害について「過失の推定」は働きません。実用新案法第29条第1項〜第3項はいずれも「故意又は過失により……侵害した者」を相手方としているので、損害賠償を求める実用新案権者・専用実施権者は、相手方の故意又は過失を自ら主張・立証することになります(民法上の不法行為の一般原則)。

実用新案は実体審査を経ずに登録される制度(知的財産権制度入門テキスト2025は「早期権利付与の観点から形式的な審査のみを行う無審査主義を採用」と説明しています)であり、権利行使には実用新案技術評価書を提示した警告が必要です(実用新案法第29条の2)。過失の推定がないことと技術評価書提示との関係、および警告後の相手方の過失の扱いについては、本記事の範囲外とし、関連記事「実用新案法第29条の2」に譲ります。青本第22版・第30条(冊子1021頁)は、実体審査を経ない登録すべてについて、事業者に有効性まで調査する義務を負わせるのは妥当でないことから、平成5年改正で第103条を準用しないことにしたと説明しています。

実用新案法第29条の2実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない。

4. 準用されていない特許法第104条(生産方法の推定)

特許法第104条物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

この規定は「物を生産する方法の発明」についての推定です。実用新案法の保護対象は「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」であり、方法の考案は登録の対象になりません(実用新案法第1条・第3条第1項柱書。詳細は該当記事に譲る)。推定の対象となる「方法」がそもそも存在しないため、準用する必要がなく、第30条にも挙げられていません。

5. 特許法第104条の4の読替え

特許法第104条の4特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの

特許では「訂正」は訂正審判の審決・訂正請求の決定(審決)という形で確定します。ところが実用新案には訂正審判がなく、実用新案権者が自ら実用新案法第14条の2第1項の訂正(1回に限る訂正)または第7項の訂正(請求項の削除のみを目的とする訂正)を行う仕組みです。そのため第30条は、第104条の4の「決定又は審決が確定した」という部分を「訂正があつた」に読み替えています。

実用新案法第14条の2第1項(柱書)実用新案権者は、次に掲げる場合を除き、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正を一回に限りすることができる。
実用新案法第14条の2第7項実用新案権者は、第一項の訂正をする場合のほか、請求項の削除を目的とするものに限り、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正をすることができる。ただし、実用新案登録無効審判が特許庁に係属している場合において第四十一条において準用する特許法第百五十六条第一項の規定による通知があつた後(同条第三項の規定による審理の再開がされた場合にあつては、その後更に同条第一項の規定による通知があつた後)は、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正をすることができない。
特許法第104条の4の文言 実用新案法第30条による読替え後 意味
「次に掲げる決定又は審決が確定した」 「第一号に掲げる審決が確定した又は第三号に掲げる訂正があつた」 対象を「無効審決の確定」と「訂正があったこと」に絞る。第2号(延長登録無効審決)は読替え後の文言に現れない(実用新案法には存続期間の延長登録制度がない)
「当該決定又は審決が確定した」 「当該審決が確定した又は訂正があつた」 再審で主張できない事項を同様に置き換え
第3号「訂正をすべき旨の決定又は審決」 「実用新案法第十四条の二第一項又は第七項の訂正」 訂正審判・訂正請求ではなく、実用新案権者自身による第14条の2の訂正を指す

〔表5〕実用新案法第30条による特許法第104条の4の読替え表。読替え文言は第30条後段のとおり。「意味」欄は本記事作成者の整理。

flowchart LR
  A["実用新案権侵害訴訟の
終局判決が確定"] --> B{"その後に何が起きたか"} B -- "実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定
(読替え後の第1号)" --> C["○ 再審の訴えで
その確定を主張できない"] B -- "第14条の2第1項又は第7項の訂正があった
(読替え後の第3号)" --> C B -- "延長登録無効審決
(第2号)" --> D["× 実用新案法には延長登録制度がなく
読替え後の文言にも現れない"] style C fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F style D fill:#ECEBF8,stroke:#4A4F9C,color:#22303F

図は左右にスクロールできます。

凡例
○ 読替え後の条文が適用される場面
× 読替え後の文言に現れない(適用の場面がない)

【図4】読替え後の特許法第104条の4(実用新案法第30条で準用)の分岐図。※読替えの文言そのものは【図5】と〔表5〕を参照。

読替え前(特許法第104条の4) 読替え後(実用新案法第30条による)

① 柱書(前段) 「次に掲げる決定又は審決が  確定した」 ① 柱書(前段) 「第一号に掲げる審決が確定した  又は第三号に掲げる訂正があつた」

② 柱書(後段) 「当該決定又は審決が  確定した」 ② 柱書(後段) 「当該審決が確定した  又は訂正があつた」

③ 第3号 「訂正をすべき旨の  決定又は審決」 ③ 第3号 「実用新案法第十四条の二第一項  又は第七項の訂正」

④ 第2号 存続期間の延長登録を 無効にすべき旨の審決 ④ × 読替え後の文言に現れない 実用新案法には存続期間の 延長登録の制度がない

図は左右にスクロールできます。

凡例
読替え前の文言(特許法)
読替え後の文言(実用新案法第30条後段)
点線=読替え後の文言に現れない
①〜④左右で対応する箇所につけた記号

【図5】特許法第104条の4の読替え前後を、同じ記号(①〜④)をつけて左右に並べたもの(〔表5〕を図にしたもの)。読替えの文言は実用新案法第30条後段のとおり。④は読替えの対象として第30条に挙げられておらず、読替え後の文言にも現れない。※第3号の「政令で定めるもの」の扱いは本文の確認先を参照。

根拠資料との照合:政令の根拠は、実用新案法施行令第4条第4項が準用する特許法施行令第8条です。権利者側が勝訴した確定判決では、その訴訟で立証された事実以外の事実に基づく無効を避ける訂正、敗訴した確定判決では、その訴訟で立証された事実に基づく無効を避ける訂正が対象です。第14条の2第1項・第7項の訂正を全て一律に対象とするのではありません。第104条の3の準用では、実用新案登録が無効にされるべきかを侵害訴訟で判断します。実用新案には存続期間の延長登録の制度はありません。実用新案法施行令第4条第4項/特許法施行令第8条/実用新案法第30条。

6. 特許法第104条の3(権利行使の制限)と第29条の3の関係

特許法第104条の3第1項特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

第30条により、実用新案権侵害訴訟でも相手方は「この実用新案登録は無効にされるべきものだ」という抗弁(無効の抗弁)を出せます。無審査で登録される実用新案では、この抗弁が特に重要な意味を持ちます。さらに実用新案法は、権利行使・警告の後に無効審決が確定した場合の権利者側の損害賠償責任(第29条の3)を自前で規定しています。第29条の3は実用新案法独自の条文で、特許法にはありません。

場面 特許法 実用新案法
侵害訴訟で「無効にされるべき権利だ」と反論する 特許法第104条の3(無効の抗弁) 特許法第104条の3を第30条で準用
判決確定後に無効審決・訂正が確定した場合の再審での主張 特許法第104条の4 特許法第104条の4を第30条で準用(読替えあり)
権利行使・警告のためにあらかじめ必要な手続 特段の規定なし 第29条の2(技術評価書を提示した警告)
権利行使・警告後に無効審決が確定した場合の権利者の責任 特段の規定なし(一般法による) 第29条の3(技術評価に基づく等、相当の注意をもって行使した場合は免責)
侵害者の過失の推定 特許法第103条 準用なし
生産方法の推定 特許法第104条 準用なし(方法の考案がない)
査証制度 特許法第105条の2〜第105条の2の10 準用なし(第30条の範囲外)

〔表6〕侵害訴訟まわりの特許法との対比。実用新案法は「権利者側の責任・注意」を重くし、「侵害者側の推定」を軽くしている構造が読み取れる(この評価は本記事作成者の整理)。

7. 試験での問われ方

試験種別 問われ方の傾向(作成者の整理) 気をつける点
短答式 「実用新案法では特許法第103条(過失の推定)が準用されている」「第104条(生産方法の推定)が準用されている」といった準用の有無を問う枝。第29条の各項の語尾(推定する/することができる)を入れ替える枝 第26条・第30条の列挙をそのまま確認する。第102条の解説を実用新案に流用できるのは「構造」であって「準用」ではない(第29条は自前の条文)
論文式 実用新案権侵害に対する損害賠償請求の要件と損害額の算定(第29条)、無効の抗弁(第30条で準用する第104条の3)、技術評価書の提示・警告(第29条の2)を組み合わせた事例 「故意又は過失」の主張立証責任が権利者側に残る点、技術評価書提示が権利行使の要件である点を落とさない
口述 「実用新案法第30条で準用されていない特許法の条文は何か、その理由は」「第104条の4の読替えはなぜ必要か」 第14条の2第1項・第7項の訂正が「審決」ではなく権利者の行為であることを説明できるようにする

〔表7〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

根拠資料との照合:問6の正解は3です。5肢は実用新案登録表示、間接侵害の刑事罰、技術評価書と刑事罰、登録料の返還、無効審決確定の公報掲載を扱い、第29条の損害額の推定や第30条の訴訟規定の準用を直接問うものではありません。 令和8年度の問題/公式解答。肢ごとの説明は条文との照合によるもので、公式解答が示す正解番号と区別しています。
レベル3のまとめ

  • 実用新案法第29条は特許法第102条と同じ5項構造。第1項の対象は「物」ではなく「物品」。
  • 第30条は特許法第104条の2〜第105条、第105条の2の11〜第106条を準用。第104条の4は「決定又は審決の確定」を「第14条の2第1項又は第7項の訂正があつた」に読み替える。
  • 特許法第103条(過失の推定)は第26条にも第30条にも列挙されておらず準用なし。権利者が故意・過失を主張立証する。
  • 特許法第104条(生産方法の推定)は方法の考案がないため準用なし。査証(第105条の2〜第105条の2の10)も第30条の範囲外。
  • 実用新案法独自の第29条の2(技術評価書提示)・第29条の3(権利者の責任)とセットで理解する。

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過失の推定を準用しない理由:青本第22版1021頁。

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