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小学生でも分かる特許法|特許法第102条〜第104条 損害額の推定・過失の推定・生産方法の推定 ― 特許権者の「立証の負担」を軽くする3つの推定

小学生でもわかる特許法:損害額・過失・生産方法の推定(特許法第102条〜第104条)

小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #37

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侵害されたとき、特許権者は「いくら損をしたか」「相手に過失があったか」「相手はその方法で作ったのか」を証明しなければなりません。どれも証明が難しいので、特許法は3つの「推定」で特許権者を助けます。第102条は損害額、第103条は過失、第104条は生産方法の推定です。

条文:特許法第102条、第103条、第104条関連:民法第709条、第100条、第65条、第105条〜第105条の2の12令和元年改正(第102条第1項・第4項)後の現行規定参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

「損した額」を証明するのはむずかしい

Aさんの特許をBさんが侵害して、にせものを1万個売りました。Aさんは「そのせいで損をした」とお金を請求したいのですが、裁判では「いくら損をしたか」を証明しなければなりません。「Bさんが売らなければ、私が1万個売れたはず」と言っても、本当にそうか証明するのは大変です。

そこで特許法は、「こう計算していいですよ」というルールを用意しました。①Bさんの売った数×Aさんの1個あたりの利益、②Bさんが得た利益、③使用料相当額、の3通りです。

①逸失利益型(第1項) 相手が売った数 × 自分の1個あたりの利益 自分が売れたはずの分 (許諾できた残余数量は使用料) ②侵害者利益型(第2項) 相手が侵害で得た利益 =自分の損害と推定 相手の帳簿から計算 ③実施料相当額型(第3項) 「使わせていたら もらえたはずの使用料」 最低限の保障 特許権者はどれかを選んで主張できる(重ねて主張できる場面もある)

【図1】第102条の3つの計算方法。

「うっかり」と「作り方」も推定

お金を請求するには、相手に「わざと」か「うっかり」(過失)があったことも必要です。でも特許は公報で公開されているので、「知らなかった」は通りにくい。そこで過失があったと推定します(第103条)。

また、「物を作る方法」の特許では、相手の工場の中を見られないので、どう作ったか分かりません。そこで、その物が新しい物なら、その方法で作ったと推定します(第104条)。

レベル1のまとめ
  • 損害額は3つの計算方法で決めてよい(第102条)。
  • 侵害者には過失があったと推定される(第103条)。
  • 新しい物なら、特許の方法で作ったと推定される(第104条)。

※第1項の細かい計算、推定を覆す方法、令和元年改正の内容などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第102条 ― 損害額の推定等

項内容(要旨)性格
第1項侵害者が侵害品を譲渡したとき、①譲渡数量のうち実施相応数量を超えない部分(販売できない事情に相当する特定数量を控除)×特許権者の単位数量当たりの利益(第1号)+②実施相応数量を超える数量・特定数量に応じた実施料相当額(第2号。許諾し得たと認められない場合を除く)の合計を損害額とすることができる損害額の算定方法(みなし的)
第2項侵害者が侵害により利益を受けているときは、その利益の額を損害額と推定する推定
第3項実施料相当額を損害額として請求できる最低限の損害
第4項第1項第2号・第3項の実施料相当額の認定にあたり、侵害があったことを前提として合意するとしたならば得られる対価を考慮できる算定の考慮要素(令和元年改正)
第5項第3項は、それを超える損害の賠償請求を妨げない。侵害者に故意・重過失がなかったときは、裁判所は賠償額を定めるにつき参酌できる上乗せ請求・軽過失の参酌

〔表1〕第102条の項ごとの内容(e-Gov、2026年9月参照、要旨)。第1項第1号・第2号の原文はレベル3で扱う。

特許法第103条(原文)他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
特許法第104条(原文)物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
flowchart TB
  A["侵害による損害賠償請求(民法第709条)"] --> B["要件:故意・過失(第103条で過失を推定)/損害の発生・額/因果関係"]
  B --> C{"損害額の主張方法(第102条)"}
  C --> D["第1項:譲渡数量×単位利益(実施相応数量まで)+超過分の実施料相当額"]
  C --> E["第2項:侵害者の利益=損害と推定"]
  C --> F["第3項:実施料相当額(最低限)"]
  F --> G["第5項:これを超える損害の請求も可。軽過失なら参酌"]
  D --> H["第4項:実施料相当額は『侵害を前提とした合意なら得られた対価』を考慮"]
  F --> H
  style F fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F

【図2】損害賠償請求の構造と第102条の位置づけ。

レベル2のまとめ
  • 第102条第1項=逸失利益型(実施相応数量まで単位利益、超過分は実施料)、第2項=侵害者利益の推定、第3項=実施料相当額、第4項=実施料の算定基準、第5項=上乗せ・軽過失の参酌。
  • 第103条:過失の推定。第104条:物を生産する方法の発明で、その物が出願前に公然知られていなければ、同一の物はその方法で生産したと推定。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 第1項の計算構造(令和元年改正)

特許法第102条第1項第1号(原文)特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に、自己の特許権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
侵害者の譲渡数量(例:10,000個) 実施相応数量(特許権者が作れた数) 実施相応数量を超える数量 特定数量 ×単位数量当たりの利益 (第1号) 販売できない事情 → 第1号から控除 → 第2号で実施料相当額 ×実施料相当額 (第2号。許諾し得なかった場合を除く) 損害額 = 第1号の額 + 第2号の額 令和元年改正で第2号(超過分・特定数量分の実施料相当額)が追加された

【図3】第102条第1項の計算構造。改正前は実施相応数量を超える部分・特定数量部分は損害から除かれるだけだった。

用語意味
単位数量当たりの利益特許権者の製品1個あたりの利益(限界利益:売上から製品の製造販売に直接必要な経費を控除した額、とする裁判例が多い)
実施相応数量特許権者の実施の能力(生産・販売能力)に応じた数量
特定数量侵害品の全部または一部を特許権者が販売できないとする事情(市場の非同一性、競合品の存在、侵害者の営業努力、侵害品の性能など)に相当する数量。侵害者が立証
第2号の除外特許権者が実施権を許諾し得たと認められない場合(例:実施許諾し得たかを具体的事情により判断する。独占実施の方針だけで直ちに許諾不能とはしない)は、超過分の実施料相当額を請求できない

〔表2〕第1項の用語。限界利益・実施能力・販売できない事情は下記の美容器事件判決要旨を参照。

令和元年改正は、販売数量に応じる逸失利益に加え、販売できない数量についても一定の場合に実施料相当額を認め、侵害を前提とする交渉額を考慮できるようにしました。特許庁・改正概要。ごみ貯蔵機器事件(2013年2月1日、平成24年(ネ)第10015号)は、侵害がなければ利益を得られた事情があれば第2項を適用できるとしました。裁判所要旨。二酸化炭素含有粘性組成物事件(2019年6月7日、平成30年(ネ)第10063号)は第2項の利益を限界利益とし、覆滅事情は侵害者が立証するとしました。裁判所要旨。美容器事件(2020年2月28日、平成31年(ネ)第10003号)は、改正前第1項の限界利益・販売できない事情を示しています。裁判所要旨。

2. 第2項の推定と覆滅

論点内容(一般的整理)
「利益」の意味侵害者の限界利益(売上から侵害品の製造販売に直接必要な追加的費用を控除)
推定の適用要件特許権者が特許発明を実施していることを要するか → 裁判例は、実施していなくても侵害がなければ利益が得られたという事情があれば適用を認める傾向
推定の覆滅侵害者が、利益の全部または一部が特許発明の寄与によらないこと(市場の非同一性、競合品、営業努力、特許発明が製品の一部にすぎないこと等)を立証すれば、その割合で推定が覆される
覆滅部分の扱い推定覆滅部分でも、特許権者が実施許諾できたと認められる場合は第3項を適用できる(知財高裁2022年10月20日、令和2年(ネ)第10024号)。実施能力超過以外の販売できない事情は個別に判断する

〔表3〕第2項の論点。

3. 第3項〜第5項 ― 実施料相当額

論点内容
性格損害の最低限の保障。特許権者が実施していなくても請求できる
算定(第4項)「侵害があったことを前提として合意をするとしたならば得られる対価」を考慮できる。通常のライセンス料率より高くなりうる(侵害者は無許諾で実施したリスクを負う)
上乗せ(第5項前段)第3項の額を超える損害(第1項・第2項や民法第709条による)の請求を妨げない
軽過失の参酌(第5項後段)侵害者に故意・重過失がなかったときは、裁判所は賠償額の算定で参酌できる(実施料相当額を下回ることはできないと解される)

〔表4〕実施料相当額の論点。

4. 第103条・第104条の推定の性質

第103条 過失の推定第104条 生産方法の推定
推定される事実侵害行為について過失があったこと同一の物は特許の方法により生産したこと
要件特許権・専用実施権の侵害物を生産する方法の発明の特許+その物が出願前に日本国内で公然知られた物でないこと
趣旨特許公報で公示されているため、注意義務を尽くせば知り得た相手方の工場内の製造方法の立証困難を救済
覆滅侵害者が無過失を立証(実務上は困難)侵害者が別の方法で生産したことを立証
補償金請求権への準用準用なし(第65条第6項に第103条は含まれない)準用あり(第65条第6項)

〔表5〕第103条と第104条の比較。第65条第6項は補償金請求権の記事で条文確認済み。

5. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「第102条第1項の実施相応数量を超える部分の扱い」「第2項は特許権者の実施が要件か」「第3項を超える請求はできるか」「軽過失の参酌」「第103条は補償金請求権に準用されるか(されない)」「第104条の要件(公然知られた物でないこと)」〔表1〕〔表4〕〔表5〕
論文式侵害事例で損害額の算定方法を第1項〜第3項で比較させ、覆滅事由を論じさせる【図3】〔表2〕〔表3〕
口述「第102条の3つの算定方法を述べよ」【図1】

〔表6〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

問7(ホ)は信用回復措置と損害賠償の併科(第106条)、問10(ロ)は第102条第5項の参酌、同(ハ)は専用実施権侵害の過失推定(第103条)が論点です。 公式正解番号:問7=3、問10=1。 公式問題/公式正解。
レベル3のまとめ
  • 第102条第1項:譲渡数量のうち実施相応数量(特定数量を控除)×単位利益+超過分・特定数量分の実施料相当額(令和元年改正)。第2項:侵害者利益の推定(覆滅あり)。第3項:実施料相当額(最低限、第4項で侵害前提の対価を考慮)。第5項:上乗せ可、軽過失参酌。
  • 第103条:過失の推定(補償金請求権には準用なし)。第104条:新規な物についての生産方法の推定(準用あり)。

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