小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #12
「先に発明した人」ではなく「先に出願した人」が勝つ。これが先願主義です。第39条は、同じ発明について複数の出願があったときに、誰が特許を受けられるかを決めるルールで、「同じ日」に出願されたときの特別な扱い(協議)まで定めています。
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同じ発明を2人が思いついたら?
世界には同じことを考える人がたくさんいます。AさんとBさんが、たまたま同じ発明をしたとしましょう。特許は「一つの発明に一つだけ」しかあげられません。どちらにあげるべきでしょうか。
日本のルールは「先に特許庁に出願した人」です。「先に思いついた人」ではありません。思いついた日は証明がむずかしいけれど、出願した日は特許庁の記録ではっきり分かるからです。これを先願主義(せんがんしゅぎ)といいます。
【図1】かけっこのイメージ。ゴール(特許庁への出願)に先に着いた人の勝ち。スタート(発明した日)は関係ない。
同じ日に出願したら「同着」
特許の世界では、この競争を日にちで数えます。同じ日に出願したら「同着」です。同着のときは、AさんとBさんで話し合いをして、どちらか1人に決めます。話し合いがまとまらなかったら――なんと2人ともダメになります。
実用新案とも競争する
「実用新案」という、特許によく似た別のしくみがあります。Aさんが特許、Bさんが実用新案で、同じアイデアを出願したら、これも競争になります。ルールは同じで、先に出したほうが勝ち、同じ日なら話し合いです。
- 同じ発明なら、先に出願した人だけが特許を受けられる(先願主義)。発明した日は関係ない。
- 同じ日なら話し合い。まとまらなければ2人ともダメ。
- 特許と実用新案の間でも同じルール。
※「同じ発明」の判断、先の出願が取り下げられた場合、話し合いをうながす手続などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
第39条の7つの項
| 項 | 場面 | 結論 |
|---|---|---|
| 第1項 | 同一の発明について異なった日に2以上の特許出願 | 最先の特許出願人のみが特許を受けられる |
| 第2項 | 同一の発明について同日に2以上の特許出願 | 前段:協議により定めた一の特許出願人のみ。後段:協議が成立せず、または協議をすることができないときは、いずれも特許を受けられない |
| 第3項 | 特許出願の発明と実用新案登録出願の考案が同一で、異なった日 | 特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願した場合にのみ特許を受けられる |
| 第4項 | 特許出願の発明と実用新案登録出願の考案が同一で、同日(実用新案登録に基づく特許出願とその実用新案登録の場合を除く) | 前段:協議により定めた一の出願人のみが特許または実用新案登録を受けられる。後段:協議不成立・不能なら、特許出願人は特許を受けられない |
| 第5項 | 特許出願・実用新案登録出願が放棄・取下げ・却下されたとき、または特許出願について拒絶査定・審決が確定したとき | 第1項〜第4項の適用については初めからなかったものとみなす。ただし、第2項後段・第4項後段(協議不成立)で拒絶査定・審決が確定したときは除く |
| 第6項 | 第2項・第4項の場合 | 特許庁長官は、相当の期間を指定して、協議をしてその結果を届け出るべき旨を命じなければならない |
| 第7項 | 指定期間内に届出がないとき | 特許庁長官は、協議が成立しなかったものとみなすことができる |
〔表1〕第39条の項ごとの整理(e-Gov法令検索、2026年9月参照)。第1項・第3項が「異日」、第2項・第4項が「同日」、第5項が「先願の地位」、第6項・第7項が「協議の手続」。
条文を読む ― 第1項・第2項
同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができない。
flowchart TB A["同一の発明について
2以上の出願がある"] --> B{"相手は特許出願?
実用新案登録出願?"} B -- "特許出願どうし" --> C{"出願日は?"} C -- "異なった日" --> R1["第1項
最先の出願人のみ"] C -- "同日" --> R2["第2項
協議で1人に。不成立なら両方×"] B -- "特許 vs 実用新案" --> D{"出願日は?"} D -- "異なった日" --> R3["第3項
特許出願人は先に出願した場合のみ"] D -- "同日" --> R4["第4項
協議で1人に。不成立なら特許出願人は×"] R2 --> E["第6項 協議命令 → 第7項 届出なしは不成立とみなせる"] R4 --> E style R1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style R3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style R2 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F style R4 fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
【図2】第39条第1項〜第4項の分岐図。「相手が何か」×「異日か同日か」の2×2で整理できる。
「同一の発明」は何と何を比べるのか
第39条で比べるのは、本願の請求項に係る発明と、先願の請求項に係る発明(特許請求の範囲に記載された発明)です。明細書全体と比べる第29条の2(拡大先願)とは、ここが根本的に違います。
【図3】比較対象の違い。第39条は請求項どうし、第29条の2は先願の当初明細書等全体。
- 異日なら最先の出願人(第1項・第3項)、同日なら協議(第2項・第4項)。協議不成立なら、特許出願は受けられない。
- 先願が放棄・取下げ・却下・拒絶確定なら「初めからなかったもの」(第5項)。ただし協議不成立で拒絶確定した場合は例外。
- 協議は特許庁長官が命じ(第6項)、届出がなければ不成立とみなせる(第7項)。
- 比べるのは請求項どうし。第29条の2とはここが違う。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 趣旨 ― 一発明一特許の原則と先願主義
審査基準 第III部 第4章 1. は、第39条の趣旨を「一発明一特許の原則」と「先願主義」で説明しています(要旨)。同一の発明について複数の出願があるときに、最先の出願人のみに特許を与えることで重複特許を排除する、というものです。
2. 「同一」の判断 ― 実質同一の3類型
審査基準 第III部 第4章 3.2 は、本願の請求項に係る発明と先願の請求項に係る発明が次のいずれかの場合に「同一」とします(要旨)。
| 類型 | 内容(要旨) | 第29条の2にもあるか |
|---|---|---|
| (i) 相違点がない | そのまま同一 | ある |
| (ii-1) 実質同一:周知・慣用技術の付加・削除・転換等 | 課題解決のための具体化手段における微差で、新たな効果を奏するものでない | ある |
| (ii-2) 実質同一:上位概念での表現の差 | 先願の発明特定事項を上位概念として表現したことによる差異 | 第39条では実質同一の類型。第29条の2では引用発明の認定段階で扱う |
| (ii-3) 実質同一:カテゴリー表現上の差 | 「物」か「方法」かなど、単なるカテゴリー表現上の差異 | 第39条では実質同一の類型。第29条の2では引用発明の認定段階で扱う |
〔表2〕第39条の同一性判断(審査基準 第III部 第4章 3.2 の要旨)。
3. 第5項 ― 先願の地位と例外
flowchart TB
A["先願がその後どうなった?"] --> B{"放棄・取下げ・却下された
または拒絶査定・審決が確定した"}
B -- "いいえ(係属中/特許された)" --> K["先願の地位あり
後願は第39条で拒絶されうる"]
B -- "はい" --> C{"その拒絶は、協議不成立
(第2項後段・第4項後段)によるものか?"}
C -- "いいえ" --> N["初めからなかったものとみなす
後願は第39条では拒絶されない"]
C -- "はい" --> K2["先願の地位が残る(ただし書)
同日出願の相手も、後日の出願も特許を受けられない"]
style N fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style K fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F
style K2 fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図4】第39条第5項の分岐図。協議不成立で両方拒絶されたのに「初めからなかった」ことにすると、後から出願した第三者が特許を受けられてしまう。それを防ぐのがただし書。
| 先願の結末 | 特許出願 | 実用新案登録出願 | 第5項の扱い |
|---|---|---|---|
| 放棄・取下げ・却下 | 対象 | 対象 | 初めからなかったものとみなす |
| 拒絶査定・拒絶審決の確定 | 対象 | (実用新案は無審査のため該当なし) | 初めからなかったものとみなす |
| 協議不成立を理由とする拒絶査定・審決の確定 | 対象 | ― | 例外:先願の地位は残る |
| 特許された・登録された | ― | ― | 当然に先願の地位あり |
〔表3〕第5項の適用範囲。条文は「特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき」。
4. 第29条の2との使い分け
| 第39条(先願) | 第29条の2(拡大先願) | |
|---|---|---|
| 比較対象 | 先願の請求項に係る発明 | 先願の当初明細書等全体 |
| 先願の公開 | 不要 | 本願後の出願公開等が必要 |
| 同日出願 | 対象(第2項・第4項:協議) | 対象外(「日前」) |
| 出願人が同一 | 適用される | 適用除外(本願出願時) |
| 発明者が同一 | 適用される | 適用除外 |
| 先願の取下げ等 | 初めからなかったものとみなす(第5項、例外あり) | 公開等がされていれば影響なし |
| 審査での使い分け(審査基準 第III部 第4章 4. の要旨) | 先願と本願の出願人が同一、または発明者が同一のときなど、第29条の2が使えない場面で機能する | 出願人も発明者も異なるときは、範囲の広い第29条の2が先に検討される |
〔表4〕第39条と第29条の2の使い分け。「同一出願人・同一発明者でも第39条は適用される」が最重要ポイント。
5. 同日出願の審査の流れ(第6項・第7項)
flowchart LR A["同日に同一の発明の出願
(第2項・第4項の場合)"] --> B["特許庁長官が
協議命令(第6項)
相当の期間を指定"] B --> C{"指定期間内に
協議結果の届出は?"} C -- "1人に決まったと届出" --> D["その1人のみ特許(登録)"] C -- "不成立と届出/届出なし" --> E["不成立(届出なしは
不成立とみなすことができる:第7項)"] E --> F["第2項後段・第4項後段により
特許出願は拒絶"] F --> G["拒絶確定後も先願の地位は残る
(第5項ただし書)"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style F fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図5】同日出願の手続の流れ。審査基準 第III部 第4章 4. は、出願人が同一の同日出願では協議命令と同時に拒絶理由通知をする旨を述べています(要旨)。
6. 「日」で判断すること ― 時分は問わない
第39条は「異なつた日」「同日」と定めており、出願の日単位で先後を判断します。同じ日なら、午前と午後の違いがあっても「同日」です。優先権主張がある場合は優先日で判断します(第41条第2項、第43条第1項等)。
7. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「同一出願人にも第39条は適用されるか」「協議不成立で拒絶確定した先願の地位」「実用新案登録出願との同日出願で協議不成立なら実用新案側はどうなるか(第4項後段は特許出願人のみ×)」「届出がないときの効果(みなすことができる)」 | 第4項後段の主語は「特許出願人」。第7項は「みなすことができる」(義務ではない)。第5項ただし書 |
| 論文式 | 複数出願のタイムラインを与えて、第29条の2・第39条のどちらで、どの出願が拒絶されるかを論じさせる | 〔表4〕で条文を選び、【図4】で先願の地位を確認 |
| 口述 | 「第39条第5項ただし書の趣旨は」「第39条と第29条の2の違いは」 | 【図4】の説明と〔表4〕 |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 比較対象は請求項どうし。同一には実質同一(周知・慣用技術の付加等、上位概念表現の差、カテゴリー表現の差)を含む。
- 出願人・発明者が同一でも第39条は適用される。第29条の2が使えない場面(同一出願人・同一発明者・同日出願)を第39条がカバーする。
- 第5項:放棄・取下げ・却下・拒絶確定なら初めからなかったものとみなす。ただし協議不成立による拒絶確定は例外。
- 協議命令(第6項)は義務、届出なしを不成立とみなす(第7項)のは裁量。
