小学生でも分かる特許法 / D. 審判・訴訟 #49
無効審判の審決が確定した後、同じ事実と同じ証拠でもう一度無効審判を請求することはできません。平成23年改正で「何人も」から「当事者及び参加人」に改められ、第三者には及ばなくなりました。この条文は、無効審判の終わり方と、審決取消訴訟・侵害訴訟との関係を理解する鍵になります。
LEVEL 1イメージでつかむ
「もう決まったこと」を何度も争う?
AさんがBさんの特許に対して「この本に同じ発明が載っている。だから無効だ」と無効審判を請求しました。審判官は「その本には載っていない」と判断し、審決は確定しました。ところがAさんは、また同じ本を持ち出して、もう一度無効審判を請求しました。
これを許すと、Bさんは何度も同じ争いに付き合わされ、特許権が安定しません。そこで第167条は、いったん審決が確定したら、同じ当事者は同じ事実と同じ証拠で再び審判を請求できない、と定めています。
【図1】一事不再理の効力の範囲。
- 無効審判の審決が確定したら、その当事者(と参加人)は、同じ事実・同じ証拠でもう一度請求できない。
- 実質的に異なる証拠や第三者の請求は第167条では禁止されない。ただし利害関係などの要件が必要。
※「同じ事実・同じ証拠」の判断、改正前との違い、侵害訴訟との関係は、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。
LEVEL 2条文の骨格
特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。
| 部品 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 対象の審判 | 特許無効審判、延長登録無効審判 | 拒絶査定不服審判・訂正審判は対象外(査定系) |
| いつから | 審決が確定したとき | 審決取消訴訟の出訴期間経過、または審決を維持する請求棄却判決等の確定により確定 |
| 誰に | 当事者及び参加人 | 平成23年改正で「何人も」から変更。第三者には及ばない |
| 何を | 同一の事実及び同一の証拠に基づく審判の請求 | 「事実」=無効理由を構成する具体的事実、「証拠」=それを立証する証拠。両方が同一のときに限る |
| 効果 | 請求することができない | 請求すれば不適法として却下(第135条) |
〔表1〕第167条の分解。
flowchart TB
A["無効審判の審決が確定"] --> B{"新たな請求をするのは誰か"}
B -- "第三者" --> OK1["請求できる(第167条の適用なし)"]
B -- "当事者・参加人" --> C{"同一の事実に基づくか"}
C -- "実質的に異なる事実" --> OK2["第167条の禁止なし
請求人適格等は別に必要"]
C -- "同一の事実" --> D{"同一の証拠に基づくか"}
D -- "実質的に異なる証拠" --> OK3["第167条の禁止なし
請求人適格等は別に必要"]
D -- "同一の証拠" --> NG["請求できない(第167条)→ 却下"]
style OK1 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK2 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style OK3 fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F
style NG fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F
【図2】第167条の当てはめの分岐図。
- 対象は無効審判・延長登録無効審判。確定審決の当事者・参加人は、同一の事実・同一の証拠で再請求できない。
- 当事者・参加人以外、又は事実・証拠が実質的に異なる場合には第167条の禁止は及ばない。請求人適格などは別に必要。
LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方
1. 平成23年改正 ― 「何人も」から「当事者及び参加人」へ
| 改正前 | 現行 | |
|---|---|---|
| 効力の及ぶ範囲 | 何人も(第三者を含む) | 当事者及び参加人 |
| 問題点 | 審判に関与していない第三者が、自分の知らない審決により無効審判を封じられる(手続保障の欠如)。憲法上の裁判を受ける権利との関係が指摘されていた | 第三者は同じ証拠で請求できる。特許権者は同じ争いを繰り返されるおそれがあるが、審決取消訴訟・侵害訴訟での主張制限(第104条の4)等で調整 |
〔表2〕平成23年改正の要点。
2. 「同一の事実及び同一の証拠」の判断
| 場面 | 同一か(一般的整理) |
|---|---|
| 同じ引用例で、同じ無効理由(新規性)を主張 | 同一 → 不可 |
| 同じ引用例で、別の無効理由(新規性→進歩性)を主張 | 法律名目の変更だけで判断せず、無効理由を基礎付ける主張事実を比較する |
| 同じ無効理由で、新たな引用例を追加 | 実質的に異なる証拠なら第167条では禁止されない。単なる補強は同一となり得る |
| 同じ引用例に、周知技術を示す証拠を追加しただけ | 実質的に同一とされることがある(裁判例) |
| 訂正により請求項が変わった後の請求 | 対象となる発明が変わるため、同一の事実とはいえない場合がある |
〔表3〕同一性の判断(裁判例の一般的整理)。審判便覧30-02は、証拠方法が異なっても実質的に同一なら第167条の同一証拠に当たり得ると整理する。
3. 「確定」と公報掲載
審決は、審決取消訴訟の出訴期間(審決謄本送達から30日:第178条第3項)の経過、または審決を維持する請求棄却判決等の確定により確定します。取消判決の確定は元の審決の確定ではなく、第181条第2項による再審理につながります。設定登録又は出願公開されたものの確定審決は特許公報に掲載され(第193条第2項第7号)、無効審決なら特許権は初めから存在しなかったものとみなされます(第125条)。
4. 他の「蒸し返し防止」規定との比較
| 規定 | 場面 | 内容 |
|---|---|---|
| 第167条 | 無効審判→無効審判 | 確定審決の当事者・参加人は同一事実・同一証拠で再請求不可 |
| 第104条の3第2項 | 侵害訴訟 | 審理を不当に遅延させる目的の無効の抗弁は却下できる |
| 第104条の4 | 侵害訴訟の判決確定後 | 無効審決・訂正審決の確定を再審の理由として主張できない |
| 第181条第2項 | 審決取消訴訟 | 取消判決の拘束力(行政事件訴訟法第33条)により、審判官は判決の判断に拘束される |
| 第126条第2項 | 訂正審判 | 異議・無効審判係属中は訂正審判不可(訂正の請求へ一本化) |
〔表4〕蒸し返し防止に関する規定の相関。第104条の3・第104条の4は権利行使の制限の記事で扱う。
5. 試験での問われ方
| 試験種別 | 問われ方の傾向 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 短答式 | 「第三者は同一の事実・証拠で請求できるか(できる)」「拒絶査定不服審判に一事不再理はあるか(ない)」「別の証拠なら請求できるか(実質的相違と請求人適格等が必要)」「参加人に及ぶか(及ぶ)」「審決確定前に請求できるか」 | 〔表1〕【図2】 |
| 論文式 | 無効審判の確定後に再度争う手段(別証拠の無効審判、侵害訴訟での抗弁)を論じさせる | 〔表4〕 |
| 口述 | 「一事不再理の効力が及ぶ者は」「対象となる審判は」 | 第167条を原文で |
〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。
- 対象は無効審判・延長登録無効審判。効力は確定審決の当事者・参加人に限る(平成23年改正)。
- 同一の事実かつ同一の証拠のときのみ禁止。事実・証拠が実質的に異なれば第167条の禁止は及ばないが、請求人適格等は別に必要。周知技術の追加程度は実質同一とされることがある。
- 侵害訴訟側の蒸し返し防止は第104条の3第2項・第104条の4。
