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小学生でも分かる特許法|特許法第80条〜第82条 法定通常実施権 ― 「特許が無効になったとき」「意匠権が切れたとき」の実施者を守る

小学生でもわかる特許法:法定通常実施権(特許法第80条〜第82条)

小学生でも分かる特許法 / C. 特許権の効力・実施権・侵害 #33

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第79条(先使用権)に続く3つの法定通常実施権です。第80条は、二重特許などの一方が無効になったときに、無効になった側の権利者・実施権者を守ります。第81条・第82条は、特許権と抵触していた意匠権が存続期間満了で消えたときに、意匠権者・その実施権者を守ります。いずれも「知らずに(または適法に)事業をしていた人を急に侵害者にしない」ための規定です。

条文:特許法第80条、第81条、第82条関連:第79条、第79条の2、第72条、第94条、第99条、第123条参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

場面①:同じ発明に2つの特許があった

本当は1つの発明に特許は1つですが、審査のミスで、AさんとBさんに同じ発明の特許が出てしまうことがあります。Aさんは自分の特許を信じて事業をしていました。その後、Aさんの特許が無効審判で無効になり、Bさんの特許だけが残りました。Aさんは急に侵害者になってしまいます。

第80条は、こういうAさん(と、Aさんからライセンスを受けていた人)に、対価を払うことを条件に、続けてよい権利を与えます。

場面②:意匠権と特許権がぶつかっていた

Cさんは先に「デザイン」の権利(意匠権)をもち、Dさんは後から同じ物について「技術」の特許をとりました。両者はぶつかっていて(抵触)、Dさんは第72条によりCさんの許可なく実施できません。ところが意匠権には期限があり、切れてしまいました。すると、今まで自由に実施していたCさんが、今度はDさんの特許を侵害することになります。

第81条・第82条は、こういうCさん(と、Cさんの実施権者)に、意匠権の範囲内で続けてよい権利を与えます。

第80条:一方の特許が無効に Aの特許 Bの特許 無効審決 残る Aと、Aの実施権者は 対価を払ってBの特許を実施できる (善意・請求登録前の国内事業等が条件) 第81条・第82条:意匠権が満了 Cの意匠権(先) Dの特許権(後) 期間満了で消滅 残る Cは無償で、Cの実施権者は対価を払って 元の意匠権の範囲内で実施できる

【図1】第80条と第81条・第82条の場面。

レベル1のまとめ
  • 二重特許等で一方が無効になったとき、無効になった側の権利者・実施権者は対価を払って続けられる(第80条)。
  • 特許権と抵触する先の意匠権が満了したとき、元の意匠権者は無償で、その実施権者は対価を払って続けられる(第81条・第82条)。

※「知らないで」の基準時、範囲、対価の有無の違いなどは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

第80条 ― 無効審判の請求登録前の実施による通常実施権

特許法第80条(原文)1 次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許無効審判の請求の登録前に、特許が第百二十三条第一項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
一 同一の発明についての二以上の特許のうち、その一を無効にした場合における原特許権者
二 特許を無効にして同一の発明について正当権利者に特許をした場合における原特許権者
三 前二号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者
2 当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。
要素内容
誰が(第1号)同一の発明について2以上の特許があり、その一つが無効になった場合の原特許権者
誰が(第2号)特許を無効にして、同一の発明について正当権利者に特許をした場合の原特許権者(冒認等で無効→正当権利者が改めて特許)
誰が(第3号)上記の場合に、無効審判の請求登録の際に無効特許の専用実施権者・通常実施権者であった者
善意無効審判の請求の登録前に、無効理由に該当することを知らないで
事業日本国内で実施の事業またはその準備
効果実施・準備している発明および事業の目的の範囲内で、残った特許権(専用実施権)について通常実施権。相当の対価(第2項)

〔表1〕第80条の要件と効果。

第81条・第82条 ― 意匠権の存続期間満了後の通常実施権

特許法第81条(原文)特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
特許法第82条(原文)1 特許出願の日前又はこれと同日の意匠登録出願に係る意匠権がその特許出願に係る特許権と抵触する場合において、その意匠権の存続期間が満了したときは、その満了の際現にその意匠権についての専用実施権又はその意匠権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者は、原権利の範囲内において、当該特許権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
2 当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
第81条第82条
前提特許出願の日前または同日の意匠登録出願に係る意匠権が特許権と抵触し、その意匠権の存続期間が満了した
誰が原意匠権者満了の際に意匠権の専用実施権者・通常実施権者であった者
範囲原意匠権の範囲内原権利(専用実施権・通常実施権)の範囲内
対象当該特許権、または満了の際に存する専用実施権
対価無償相当の対価(第2項)

〔表2〕第81条と第82条の比較。原意匠権者は無償、その実施権者は有償。

flowchart TB
  A["先願(または同日)の意匠権と後願の特許権が抵触"] --> B["先願意匠:特許権者は第72条の制約を受ける
同日意匠:第72条の制約なし/意匠権者は実施可"] B --> C["意匠権の存続期間が満了"] C --> D["原意匠権者:原意匠権の範囲内で無償の通常実施権(第81条)"] C --> E["意匠権の実施権者:原権利の範囲内で有償の通常実施権(第82条)"] C --> F["特許権者:以後は意匠権の制約なく実施できる"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FFF3E8,stroke:#D9782D,color:#22303F

【図2】第81条・第82条の流れ。

レベル2のまとめ
  • 第80条:二重特許等の無効で残った特許に対し、善意の原特許権者・実施権者に有償の通常実施権。基準時は無効審判の請求登録。
  • 第81条:先願・同日の意匠権満了後、原意匠権者に無償の通常実施権。第82条:その実施権者に有償の通常実施権。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 第80条の「二重特許」はなぜ起きるか

第1号の場面説明
審査の過誤先願(第39条)・拡大先願(第29条の2)の見落としで、同一発明に2つの特許が出た。後願の特許が無効になり、先願の特許が残る
第2号の場面冒認出願に特許が出て、無効審判で無効になった後、真の権利者が改めて出願して特許を得た(第74条の移転請求ができる現在では、移転の場合は第79条の2が対応)

〔表3〕第80条が想定する場面。第2号は平成23年改正後、第79条の2と役割分担している。

2. 第81条「同日」が含まれる理由

第72条(利用・抵触)は「特許出願の日前の出願」に係る意匠権としか抵触を定めておらず、同日出願の意匠権と特許権は互いに制約なく実施できます。それでも第81条・第82条が「同日」を含めているのは、意匠権満了後に特許権者から差止めを受ける事態を防ぐためです。

根拠と補足:先の出願または同日の出願に係る意匠権者は、その意匠権の存続中、後の特許による制約を受けずに登録意匠を実施できます。意匠権の期間満了だけを理由に事業の継続が妨げられないようにするのが、第81条が同日出願も含む理由です。第72条の調整対象は「日前」の出願であり、同日まで含む第81条とは範囲が異なります。出典:特許庁・逐条解説第22版(第81条、303頁)。

3. 法定通常実施権の総まとめ

条文誰が基準時善意の要否範囲対価
第35条第1項使用者等(職務発明)―不要特許権全体無償
第79条先使用者特許出願の際要(出願発明を知らないで)実施・準備の発明+事業の目的無償
第79条の2移転登録前の特許権者・実施権者移転登録の際要(冒認等を知らないで)同上有償
第80条無効特許の原特許権者・実施権者無効審判の請求登録要(無効理由を知らないで)同上有償
第81条原意匠権者意匠権の満了不要原意匠権の範囲無償
第82条意匠権の実施権者意匠権の満了不要原権利の範囲有償
第176条再審請求登録前の善意の実施者再審の請求登録要実施・準備の発明+事業の目的無償(第176条に対価請求の規定なし)

〔表4〕法定通常実施権の比較。対価は各条の規定で判断する。原特許権者であっても第80条は有償であり、権利の出所だけでは分けられない。

4. 移転・対抗

いずれの法定通常実施権も、実施の事業とともにする場合・特許権者の承諾・一般承継の場合に移転でき(第94条第1項)、登録なしで対抗できます(第99条)。

5. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「第80条の対価の有無(有償)」「第81条の対価(無償)と第82条の対価(有償)」「第81条は同日出願を含むか(含む)」「第80条の善意の基準時(無効審判の請求登録前)」「第80条第3号の実施権者」〔表1〕〔表2〕〔表4〕
論文式二重特許や意匠権抵触の事例で、実施の可否と法定通常実施権の成否を論じさせる【図2】
口述「法定通常実施権を挙げよ」「無償のものと有償のものは」〔表4〕

〔表5〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

過去問との対応:令和8年度短答式試験について、特許・実用新案の問1〜20を照合した範囲では、第80〜82条を直接の論点とする肢はありません。 出典:公式問題・特許/実用新案の部、公式正解。公式正解は問題単位の番号です。個々の肢の論点説明は条文との照合によります。
レベル3のまとめ
  • 第80条:無効審判の請求登録前に無効理由を知らずに事業(準備)をしていた原特許権者・実施権者に有償の通常実施権。
  • 第81条:先願・同日の意匠権満了後、原意匠権者に無償。第82条:その実施権者に有償。
  • 対価は各条文で確認する。第80条は原特許権者についても有償。移転は第94条、対抗は第99条。

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