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小学生でも分かる特許法|特許法第36条 明細書・特許請求の範囲の記載要件 ― 「作り方の説明書」と「ほしい範囲の宣言」の書き方ルール

小学生でもわかる特許法:明細書・特許請求の範囲(特許法第36条)

小学生でも分かる特許法 / A. 特許要件・発明 #9

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特許は「発明を公開する代わりに独占を認める」制度です。だから出願書類には「他の人が再現できる説明」(明細書)と「どこまで独占したいかの明確な宣言」(特許請求の範囲)が必要です。第36条は、その書き方のルールを定めています。

条文:特許法第36条(第1項〜第7項)審査基準:第II部 第1章・第2章参照時点:2026年9月

LEVEL 1イメージでつかむ

特許は「公開のごほうび」

特許をもらうと、その発明を一定期間ひとりじめできます。でも、それはタダではありません。かわりに、発明の中身を世の中に公開しなければなりません。みんながその発明を勉強して、もっといいものを作れるようにするためです。

だから出願書類には、2つのものが必要です。

レシピ = 明細書 「こう作れば、こう動く」を その道のプロが読めば 再現できるように書く ルール: プロが再現できるくらい詳しく 看板 = 特許請求の範囲 「ここからここまでが 私の発明です」と はっきり宣言する ルール: レシピに書いた範囲で、はっきりと、簡潔に レシピに書いていないことを看板に書いてはいけない(サポート要件)

【図1】明細書(レシピ)と特許請求の範囲(看板)。看板はレシピの範囲内で、はっきり書く。

レシピのルール:プロが再現できること

「すごい発明をしました!」とだけ書いて、作り方を書かなかったら、誰も再現できません。それでは公開したことになりません。だから明細書には、その道のプロ(当業者)が読めば作れて使えるくらい、はっきり十分に書かなければなりません。

看板のルール:レシピの範囲で、はっきりと

看板(特許請求の範囲)には3つのルールがあります。①レシピに書いてあることの範囲で書く(書いていないことを独占してはいけない)、②はっきり書く(どこまでが自分の範囲か、読んだ人が分かるように)、③簡潔に書く。

レベル1のまとめ
  • 特許は公開のごほうび。だから「再現できるレシピ」(明細書)と「範囲の看板」(特許請求の範囲)が必要。
  • レシピ:プロが再現できるくらい詳しく。
  • 看板:レシピの範囲内で、はっきり、簡潔に。

※願書・図面・要約書の扱い、「先行技術文献の情報」を書くルール、要件違反の効果などは、正確には条件があります(→レベル2・レベル3)。

LEVEL 2条文の骨格

出願書類の構成(第1項〜第3項)

flowchart TB
  W["願書(第1項)
出願人の氏名・名称・住所等(第1号)
発明者の氏名・住所等(第2号)"] W --> S["明細書(第2項・第3項)
発明の名称/図面の簡単な説明/発明の詳細な説明"] W --> C["特許請求の範囲(第2項・第5項)
請求項ごとに発明を特定する事項"] W --> D["必要な図面(第2項)"] W --> A["要約書(第2項・第7項)
発明の概要"] S -. "第4項の要件" .-> S4["第1号 実施可能要件・委任省令要件
第2号 先行技術文献情報開示要件"] C -. "第6項の要件" .-> C6["第1号 サポート要件
第2号 明確性要件
第3号 簡潔性要件
第4号 委任省令要件"]

【図2】第36条が定める出願書類と、各書類にかかる要件。

項対象内容(要旨)
第1項願書出願人の氏名・名称・住所等、発明者の氏名・住所等を記載
第2項添付書類明細書、特許請求の範囲、必要な図面、要約書を添付
第3項明細書発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載
第4項発明の詳細な説明第1号:当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載(実施可能要件。経済産業省令で定めるところにより=委任省令要件)。第2号:出願時に知っている文献公知発明の情報の所在を記載(先行技術文献情報開示要件)
第5項特許請求の範囲請求項に区分し、各請求項ごとに発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載。一の請求項と他の請求項の発明が同一でもよい
第6項特許請求の範囲第1号:発明の詳細な説明に記載したものであること(サポート要件)。第2号:発明が明確であること(明確性要件)。第3号:請求項ごとの記載が簡潔であること(簡潔性要件)。第4号:経済産業省令で定めるところにより記載(委任省令要件)
第7項要約書発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載

〔表1〕第36条の項ごとの内容(e-Gov法令検索、2026年9月参照、要旨)。

条文を読む ― 第4項・第6項

特許法第36条第4項(原文) 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
特許法第36条第6項(原文) 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
出典:e-Gov法令検索(法令ID 334AC0000000121)、2026年9月参照。

要件違反の効果 ― どれが拒絶理由・無効理由になるか

要件拒絶理由無効理由備考
第4項第1号(実施可能要件・委任省令要件)○○
第4項第2号(先行技術文献情報開示要件)△×第48条の7の通知を受けて補正・意見書を出しても要件を満たさないときに拒絶理由(第49条第5号)。無効理由ではない
第6項第1号〜第3号(サポート・明確性・簡潔性)○○
第6項第4号(委任省令要件)○×無効理由から除かれている
第5項、第7項(要約書)××拒絶理由・無効理由ではない。要約書は技術的範囲の解釈にも用いない(第70条第3項)

〔表2〕要件違反の効果の一覧。

根拠と補足:第36条第4項第1号・第6項違反は第49条第4号の拒絶理由です。第4項第2号は第48条の7の通知後も違反すると第49条第5号の拒絶理由になります。無効理由の第123条第1項第4号は第4項第1号・第6項第1号〜第3号に限られます。要約書は第70条第3項により技術的範囲の判断には用いませんが、提出・形式に関する義務はあります。第36条・第49条・第70条・第123条。
レベル2のまとめ
  • 願書+明細書・特許請求の範囲・図面・要約書。明細書には第4項、特許請求の範囲には第6項の要件。
  • 第4項第1号=実施可能要件、第6項第1号=サポート要件、第2号=明確性要件、第3号=簡潔性要件。
  • 第4項第2号(先行技術文献情報)と第6項第4号は、拒絶理由・無効理由の扱いが他と違う(〔表2〕)。

LEVEL 3要件・例外・試験での問われ方

1. 実施可能要件(審査基準 第II部 第1章 第1節)

審査基準は、当業者が「明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて」実施できることを要求し、「期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等」が必要な場合は違反としています(要旨)。

発明のカテゴリー「実施できる」の意味(審査基準 3.1 の要旨)
物の発明その物を作れ、かつ使用できること。作り方が具体的に記載され、技術的に意味のある特定の用途が記載されていること
方法の発明その方法を使用できること
物を生産する方法の発明その方法により物を生産できること。原材料・処理工程・生産物の3つが記載されていること

〔表3〕カテゴリー別の実施可能要件。第2条第3項の実施の定義と対応している。

flowchart TB
  A["実施可能要件違反の類型(審査基準 3.2・5.)"] --> B["3.2.1 実施の形態の記載不備"]
  A --> C["3.2.2 請求項に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能でない"]
  A --> D["5. 特定の記載形式"]
  B --> B1["① 技術的手段が抽象的・機能的"]
  B --> B2["② 技術的手段相互の関係が不明確"]
  B --> B3["③ 製造条件等の数値が未記載"]
  C --> C1["④ 上位概念の一部の下位概念のみ実施可能
(例:熱可塑性樹脂のみ実施例、熱硬化性は不可)"] C --> C2["⑤ 特定の実施の形態のみ実施可能
(例:レンズ系の特異点的数値例)"] D --> D1["マーカッシュ形式で一部の選択肢のみ実施可能"] D --> D2["達成すべき結果で特定され、一般的手段の教示なし"]

【図3】実施可能要件違反の類型(審査基準 第II部 第1章 第1節 3.2・5. の要旨)。①〜③はいずれも「出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できない」ことが条件。

2. サポート要件(審査基準 第II部 第2章 第2節)

審査基準は、サポート要件の趣旨を「発明の詳細な説明に記載していない発明について特許を受けることは、公開されていない発明について権利が発生することになる」ため、と説明しています(要旨)。判断は、請求項に係る発明と発明の詳細な説明の「実質的な対応関係」を、出願時の技術常識を参酌して検討し、請求項が「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていないかを見ます。

違反の類型(2.2)例(要旨)
(1) 発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない事項請求項に数値限定があるが、詳細な説明に具体的な数値の記載がない
(2) 用語が不統一で対応関係が不明請求項の「データ処理手段」が、詳細な説明の「文字サイズ変更手段」か「行間隔変更手段」か分からない
(3) 具体例から拡張・一般化できる範囲を超えている詳細な説明の具体例から技術常識に基づいて拡張しても請求項の範囲まで及ばない(技術分野の予測可能性により判断が異なる)
(4) 課題を解決するための手段が請求項に反映されていない詳細な説明で「Xにより課題を解決する」と説明しているのに、請求項にXがない

〔表4〕サポート要件違反の4類型(審査基準 第II部 第2章 第2節 2.2 の要旨)。

3. 明確性要件(審査基準 第II部 第2章 第3節)

明確性要件は、特許請求の範囲の記載が新規性・進歩性の判断の基礎になり、技術的範囲を定めるものであることから、一つの請求項から発明が明確に把握されることを求めます。判断は請求項の記載を基本とし、明細書・図面の記載と出願時の技術常識を考慮します。

不明確となる類型(2.2)例(要旨)
(1) 請求項の記載自体が不明確日本語として不適切な表現、意味内容を理解できない用語(明細書に定義のない「KM-II触媒」)
(2) 発明特定事項に技術的な不備成分の最大値の合計が100%を超える合金、技術常識に反する回路、工程間の生成物・出発物質の不一致、技術的関連のない事項の組合せ、販売地域などの非技術的事項
(3) カテゴリーが不明確「〜する方法又は装置」。なお「方式」「システム」は物、「使用」「利用」は方法として扱う
(4) 選択肢どうしが類似の性質・機能を有しない「特定の部品又は該部品を組み込んだ装置」、中間体と最終生成物の択一的記載
(5) 範囲を曖昧にし得る表現否定的表現、上限または下限のみの数値範囲、比較基準が不明(「やや大きい」「高温」)、「約」「実質的に」、「所望により」、0を含む数値範囲、図面・明細書での代用(「図1に示す機構」)。いずれも当業者が範囲を理解できるかで個別に判断

〔表5〕明確性要件違反の類型(審査基準 第II部 第2章 第3節 2.2 の要旨)。(5)は「表現があるだけで不明確とはしない」のが原則。

特定の表現(4.)不明確となる場合(要旨)
機能・特性等による物の特定(4.1)機能・特性の定義や試験方法を当業者が理解できない/技術的に十分特定されていない(新規受容体の「R受容体活性化作用を有する化合物」など)
サブコンビネーション(4.2)「他のサブコンビネーション」に関する事項が理解できない
製造方法による物の特定(4.3)製造方法を理解できない/生産物の構造・性質を理解できない。物の発明を製造方法で特定する記載は、出願時に物の構造・特性で直接特定することが不可能または実際的でない事情がある場合に限り明確(最高裁平成27年6月5日判決〔プラバスタチンナトリウム事件〕を踏まえた運用)

〔表6〕特定の表現を有する請求項(審査基準 第II部 第2章 第3節 4. の要旨)。

根拠と補足:最高裁2015年6月5日第二小法廷判決は、物の発明の請求項に製造方法が書かれた場合、技術的範囲・発明の要旨はその方法で製造された物と同一の構造・特性を持つ物として捉えます。明確性要件を満たすには、出願時に構造又は特性による直接の特定が不可能又はおよそ実際的でない事情が必要です。平成24年(受)第1204号/同第2658号・理由4。

4. 実施可能要件とサポート要件の違い

実施可能要件(第4項第1号)サポート要件(第6項第1号)
どの書類の要件か明細書(発明の詳細な説明)特許請求の範囲
問いかけ詳細な説明を読めば、当業者が請求項の発明を実施できるか請求項の発明は、詳細な説明に記載された(課題を解決できると認識できる)範囲内か
方向明細書→請求項(明細書が請求項を支えるだけの情報を持っているか)請求項→明細書(請求項が明細書からはみ出していないか)
審査基準第II部 第1章 第1節第II部 第2章 第2節
拒絶理由の書き方審査官は、どちらの要件違反かを明示し、根拠を具体的に説明する(審査基準 4.1.1)同左

〔表7〕実施可能要件とサポート要件の比較。同じ事実が両方の違反になることもあるが、要件としては別。

5. 先行技術文献情報開示要件(第4項第2号)の特殊性

flowchart LR
  A["第36条第4項第2号を
満たしていない"] --> B["審査官が第48条の7の通知
(期間を指定)"] B --> C{"補正・意見書で
要件を満たしたか"} C -- "満たした" --> D["問題なし"] C -- "満たさない" --> E["拒絶理由(第49条第5号)"] E -.-> F["無効理由にはならない"] style D fill:#E6F5F3,stroke:#1F8A83,color:#22303F style E fill:#FDEDED,stroke:#B23A3A,color:#22303F

【図4】第4項第2号の流れ。いきなり拒絶理由にはならず、第48条の7の通知が先に来る。第17条の2第1項第2号の補正時期とも対応。

6. 試験での問われ方

試験種別問われ方の傾向気をつける点
短答式「要約書の記載不備は拒絶理由か」「第4項第2号違反はただちに拒絶理由か」「第6項第4号は無効理由か」「一の請求項と他の請求項の発明が同一でもよいか(第5項後段)」〔表2〕。第5項後段の「妨げない」
論文式事例で、請求項の記載がサポート要件・明確性要件を満たすか、明細書が実施可能要件を満たすかを論じさせる〔表7〕で要件を分け、審査基準の類型(〔表4〕〔表5〕【図3】)に当てはめる
口述「第36条第6項各号を挙げよ」「実施可能要件とサポート要件の違いは」〔表1〕〔表7〕

〔表8〕試験での問われ方の整理。傾向の記述は本記事作成者の整理であり、出題を保証するものではありません。

根拠と補足:令和8年度短答式(特許・実用新案)問1では、肢4で願書の記載事項、肢5で明細書未添付時の補完が扱われています。問1全体の公式正解は4です。公式問題/公式解答。第36条第1項の記載事項を述べた肢4が正解です。
レベル3のまとめ
  • 実施可能要件=明細書の要件。当業者が出願時の技術常識とあわせて、過度の試行錯誤なく実施できるか。カテゴリー別に「作れて使える/使える/生産できる」。
  • サポート要件=請求項の要件。請求項が「課題を解決できると認識できる範囲」を超えていないか。
  • 明確性要件=一つの請求項から発明が明確に把握できるか。曖昧な表現は「あるだけで不明確」とはせず個別判断。
  • 第4項第2号は第48条の7の通知を経て拒絶理由、無効理由ではない。第6項第4号も無効理由ではない。要約書には提出・形式の義務があるが、技術的範囲の判断には用いない(第70条第3項)。

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