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2026年度弁理士試験 短答・特許実用新案 第17問|実施権と質権

2026年度 弁理士試験 短答・特許法 第17問 実施権と質権

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目次

【問題文】

特許権についての実施権等に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。

(イ)甲が自ら考えた発明イについて、乙の特許権Aについて先使用による通常実施権が認められるためには、乙の特許権Aに係る特許出願の際現に日本国内において、甲が発明イを善意に実施又は準備している必要がある。

(ロ)特許権Aの特許権者である甲は、特許権Aに係る発明イの実施が、乙が有する先願の意匠権Bと抵触すると考え、乙に対して意匠権Bについて通常実施権の許諾についての協議を求めると、乙から甲に対して特許権Aについての通常実施権の許諾についての協議があった。その後、これらの協議は成立せず、甲は、特許庁長官に裁定の請求をしたものの、特許庁長官は、通常実施権を設定すべき旨の裁定をしなかった。この場合において、特許庁長官は、その後に乙からの裁定の請求があっても、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。

(ハ)甲による特許法第83条第2項に係る裁定の請求が認められ、対価の額並びに支払の方法及び時期が当該裁定において定められた。その後、甲は特許権者である乙に対して対価の支払を試みるものの、乙が、長期旅行のため不在であることにより対価を受領することができなかった。この場合、甲は対価を供託する必要がない。

(ニ)甲は、乙に対し、通常実施権を許諾した。乙は、甲の承諾を得て、丙に対し、当該通常実施権に質権を設定した。丙がこの質権を実行して当該通常実施権を移転する場合、甲の承諾を別途得る必要はない。

(ホ)甲は、特許権Aの専用実施権者である。甲は、乙に対し、その専用実施権を目的として、質権を設定した。その後、丙は、正当な権原なしに、特許権Aに係る発明を実施した。乙は、甲の丙に対する専用実施権に基づく損害賠償請求権について、差押えを経て質権を実行することができる。

1 1つ

2 2つ

3 3つ

4 4つ

5 5つ

出典:特許庁「令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題」【特許・実用新案】17(PDF21頁)。原文の改行・字間を整理し、赤字の強調を編集上追加しています。

公式問題PDF

【解説】

実施権が発生する場面と、発生した実施権を移転・担保化する場面を分けて読みます。本問では、先使用の要件、裁定の相互関係、対価の供託、質権の設定と実行が問われています。

以下の表は各肢の判断に必要な範囲を整理した自作表です。法令は試験日(2026年5月17日)と2026年10月7日の対象規定を照合しています。

(イ)先使用には、出願時にも「善意」であることが必要か

この肢は誤りです。根拠は特許法79条です。

甲は自ら考えた発明を実施しています。ここで確認するのは、発明をどのように知ったのかと、乙の出願時に事業を実施・準備していたのかという、別々の要件です。

79条は、出願に係る発明の内容を知らずに自ら発明した場合、又はそのように独立して発明した人から知得した場合を保護します。青本第22版297頁は、出願時点で他人の発明を知っているかどうかではなく、実施している発明を知得した経路を問題にすると説明しています。

例えば、甲が乙の発明を知らずに独立して発明し、国内で事業の準備を進めた後、乙の出願前に乙も同じ発明をしたと知った場合を考えます。この「後から知った」という事情だけで先使用の通常実施権が否定されるわけではありません。もちろん、乙の出願の際に国内で実施の事業又はその準備をしているという要件は別に必要です。

〔表1〕先使用で分けて確認する二つの要件(79条)

確認する点 条文が求めていること
発明の知得経路 出願に係る発明の内容を知らずに自ら発明、又はそのように発明した者から知得
出願時の事業の状態 現に日本国内で、その発明の実施である事業又は事業の準備をしている
本肢の追加条件 出願時にも「善意」であることまでは要件とされていない

この制度は、独立して発明し事業を進めてきた人と、特許権者との公平を図るものです。ただし、通常実施権の範囲は、実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内です。単に自分で発明しただけで、無制限の実施権が生じるのではありません。

本肢は、知得の経路の問題を出願時の「善意」の問題に置き換えた点で誤りです。

(ロ)甲の裁定が認められなくても、乙だけ実施権を得られるか

この肢は正しいです。根拠は特許法92条6項です。

甲の特許発明の実施が、乙の先願の意匠権Bと抵触する場面です。甲が自分の特許権を持っていることだけでは、乙の意匠権との関係を解消できません。72条に該当する場合、甲は92条1項に基づきBの通常実施権の許諾について協議を求めることができ、協議が整わなければ3項の裁定を請求できます。

これに対し、乙は2項により逆方向の協議を求めることができます。これが整わず、甲から3項の裁定請求があった場合には、乙は4項の裁定を請求できます。ただし、乙の請求は甲の請求に対する答弁書の提出期間内に限られます。

〔表2〕甲からの請求と、乙からの逆方向の請求(92条)

請求する人・対象 関係する規定と条件
甲:乙の意匠権Bの通常実施権 1項の協議が不成立等なら3項の裁定請求
乙:甲の特許権Aの通常実施権 2項の協議が不成立等で、甲の請求があれば4項の裁定請求。指定された答弁期間内に限る
甲に実施権を設定する裁定がされない 6項により、乙だけに実施権を設定する裁定もできない

逆方向の裁定は、双方の利害を調整する仕組みです。甲には実施権を与えず、乙にだけ与えることは92条6項が認めていません。青本第22版318〜320頁も、相互利用と利害調整の趣旨、6項の制限を説明しています。

なお、甲の請求が認められれば乙の請求も必ず認められる、という意味ではありません。相手方の利益を不当に害する場合は5項により裁定できません。本肢の「甲に設定する裁定をしなかった」という条件からは、乙にも設定できないという結論になります。

(ハ)権利者が旅行で受け取れないとき、供託は不要か

この肢は誤りです。根拠は特許法88条2号です。

甲が得たのは、不実施の場合の裁定による通常実施権です。裁定に対価と支払時期が定められている以上、乙の不在によって対価を受け取ってもらえなくても、支払の問題を放置することはできません。

88条2号は、対価を受けるべき者が受領できないときは供託しなければならないと定めています。供託とは、この場面では、相手に直接渡せない対価を供託所に預ける手続です。青本第22版312頁は、長期旅行で不在の場合をまさにこの号の例に挙げています。

〔表3〕受け取りを拒む場合と、受け取れない場合(88条)

状況 供託の根拠
弁済の提供をしたが、受領を拒まれた 1号:供託が必要
長期旅行などで受領できない 2号:供託が必要(本肢)

表は本肢に関係する1号・2号の比較です。このほか、対価に関する訴えが提起された場合や、対象権利に質権が設定されている場合についても供託の規定があります。質権がある場合には、質権者の承諾を得たときの例外があります。

また、89条は、裁定で定めた支払時期までに支払又は供託をしないと裁定が失効すると定めています。定期・分割払いでは最初に支払うべき分が対象です。「支払おうとした」ことと「支払又は供託を終えた」ことは違います。乙が受領できない本肢では供託が必要なので、記述は誤りです。

(ニ)質権の設定と実行で、承諾を二度得る必要があるか

この肢は正しいです。根拠は特許法94条1項・2項と、その解釈です。

乙は甲から通常実施権の許諾を受けています。その通常実施権に質権を設定するには、94条2項により甲の承諾が必要です。本肢では、乙は既に甲の承諾を得て丙のために質権を設定しています。

質権は、債務が履行されないときなどに、担保にした権利から弁済を受けるためのものです。青本第22版324頁は、質権設定の承諾には、質権の実行によって通常実施権が移転することへの承諾も含まれると説明しています。そのため、実行による移転の段階で、94条1項の承諾をもう一度得る必要はありません。

〔表4〕甲の承諾が必要な段階(94条1項・2項)

段階 甲の承諾
乙の通常実施権に丙の質権を設定 必要。本肢では取得済み
丙がその質権を実行し、通常実施権が移転 設定時の承諾に含まれるため、別途の承諾は不要

通常実施権の移転を制限するのは、誰が実施するかが特許権者の利害に影響するためです。一方、質権の設定を承諾しておきながら、実行時に改めて承諾しないことで担保の実現を止められると、設定時の承諾を前提にした仕組みが成り立ちません。

これは、質権を設定すれば、その後のあらゆる任意の譲渡まで自由になるという意味ではありません。問題となっているのは、承諾を得て設定した質権の実行による移転です。また、裁定による通常実施権は94条1項・2項の対象から除かれており、許諾による本肢と混同しないようにします。したがって、本肢は正しい記述です。

(ホ)侵害による損害賠償請求権にも、質権を行使できるか

この肢は正しいです。根拠は特許法96条です。

甲は専用実施権者、乙はその専用実施権を目的とする質権者、丙は侵害者です。乙が問題としているのは、自分の損害賠償請求権ではなく、甲が丙に対して持つ請求権です。

96条は、専用実施権などを目的とする質権を、その対価や、特許発明の実施について専用実施権者などが受けるべき金銭等にも行使できると定めています。担保にした権利に代わる経済的価値にも質権が及ぶ、この仕組みを「物上代位」といいます。

青本第22版328頁は、実施料だけでなく損害賠償請求権にも質権の効力が及ぶと説明しています。本肢の甲の丙に対する損害賠償請求権も、その対象となります。

〔表5〕乙が質権を行使する対象と順序(96条)

確認する点 本肢の関係
もとの担保 甲の専用実施権
物上代位の対象 甲が丙に対して持つ、専用実施権侵害の損害賠償請求権
必要な先行手続 払渡し又は引渡しの前に差押えをする
その後 当該請求権について質権を実行できる

差押えは、金銭等が甲に渡る前に行う必要があります。青本327頁は、受領後に甲の一般財産へ組み込まれたものに優先権を認めると、他の債権者を害するおそれがあると説明しています。既に受け取った金銭を、後から当然に取り戻せるという規定ではありません。

また、質権者になっただけで特許発明を実施できるわけでもありません。95条では契約に別段の定めがない限り実施できないとされています。実施する権能と、担保価値を回収する権能を分けると、本肢を判断しやすくなります。払渡し等の前の差押えを経て質権を実行できるので、本肢は正しい記述です。

確認した資料

【解答】

正しいものは(ロ)・(ニ)・(ホ)の3つ。正答は3です。

〔表6〕各肢の正誤(○=正しい、×=誤り)

肢 正誤 判断の決め手
イ × 先使用では知得経路を問題とし、出願時の善意まで要求していない
ロ ○ 甲に設定する裁定をしないときは、乙だけに設定する裁定もできない
ハ × 権利者が長期旅行で受領できないときは、対価の供託が必要
ニ ○ 質権設定の承諾には、その実行による移転の承諾も含まれる
ホ ○ 払渡し等の前の差押えにより、損害賠償請求権にも物上代位できる

5肢のうち、いくつ自信を持って判定できましたか

正答を選べたかだけでなく、根拠条文を思い浮かべて判定できた肢の数で、次に取り組むことを選んでください。

〔表7〕実施権・質権の自己診断

自信を持って判定できた肢 今の状態 次にやること
5肢すべて 先使用の要件、裁定の関係、供託と質権の効果を区別できている 次の問題へ進む
3〜4肢 出願時の善意や、質権設定時の承諾が及ぶ範囲に迷いがある あいまいだった肢だけ、枝別の過去問で潰す
2肢以下 実施権の発生・移転と、質権による回収の仕組みがまだつながっていない 過去問を回す前に、流れを一度整理する

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