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【問題文】
特許出願についての拒絶査定不服審判又は特許法第162条に規定する審査(いわゆる前置審査)に関し、次のうち、誤っているものは、いくつあるか。
(イ) 拒絶査定不服審判の請求は、請求人に審決の謄本が送達された後でも、取り下げることができる場合がある。
(ロ) 前置審査において、その審判の請求書に記載した請求の趣旨が不明であるとき、審査官は、請求人に対し、相当の期間を指定して、その審判の請求書について補正をすべきことを命ずることができる。
(ハ) 補正の却下の決定とともに拒絶をすべき旨の査定がされた場合、拒絶査定不服審判において、補正の却下の決定の可否についても争うことができる。
(ニ) 拒絶査定不服審判に関する費用は、請求人が負担する。
(ホ) 拒絶査定不服審判において、審査の手続に重大な欠陥があり、そのままでは審判の基礎に用いることができない場合、査定を取り消して、さらに審査に付すべき旨の審決をしなければならない。
1 1つ 2 2つ 3 3つ 4 4つ 5 5つ
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験短答式筆記試験問題」【特許・実用新案】15(PDF19頁)。原文の改行・字間を整理し、赤字の強調を編集上追加しています。
【解説】
この問題では、審判の手続を担当する人と、出願の内容を審査する人を分けて考えます。また、手続を「することができる」のか、「しなければならない」のかにも注意します。以下の表は各肢の判断に必要な範囲を整理した自作表です。
(イ)審決謄本の送達後も、請求を取り下げられるか
この肢は正しいです。根拠は特許法155条1項です。
本肢が尋ねているのは、審決の謄本が届いた後の取下げです。決め手は「審決がされたか」でも「謄本が届いたか」でもなく、審決が確定したかです。
155条1項は、審決が確定するまでは審判の請求を取り下げられると定めています。例えば、請求不成立の審決の謄本を受け取った後でも、出訴期間が経過しておらず審決が確定していない段階なら、取下げが可能です。審決取消訴訟の段階に進んだことだけで直ちに取下げが不可能になるわけでもありません。
〔表1〕取下げの区切り(特許法155条1項・178条3項)
| 時点 | 拒絶査定不服審判の請求の取下げ |
|---|---|
| 審決の謄本が届く前 | 審決確定前なので可能 |
| 謄本が届いた後、審決確定前 | 可能 |
| 審決確定後 | 155条1項による取下げは不可 |
青本第22版の155条の説明も、当事者が手続への対応を選ぶ余地を広げるため、取下げの期限を審決確定までとした趣旨を説明しています。なお、155条2項の相手方の承諾という制約は、答弁書の提出を伴う当事者対立型の審判の場面です。拒絶査定不服審判に同じ相手方がいると考えないようにしてください。
本肢は「送達後はいつでも」ではなく「できる場合がある」と述べているので、正しい記述です。
(ロ)前置審査の審査官が、審判請求書の補正を命じられるか
この肢は誤りです。根拠は特許法131条1項3号・133条1項・162条です。
請求の趣旨は、審判請求書に記載すべき事項です。それが不明で131条の方式を満たさないときに補正を命じるのは、133条1項の審判長です。本肢は主体を「審査官」に置き換えています。
前置審査は、審判請求と同時に明細書等が補正された場合に、出願を審査官が再審査する仕組みです。「その請求を審査させなければならない」という162条の表現から、審判請求書の方式まで審査官が判断すると読んではいけません。青本第22版551頁は、前置審査の対象が審判請求書等の方式ではなく、請求に係る特許出願であることを明確にしています。
〔表2〕補正する書類と担当者を分ける
| 対象 | 何を確かめるか | 本問に関係する担当・根拠 |
|---|---|---|
| 審判請求書 | 請求の趣旨など、請求書の方式 | 審判長の補正命令(133条1項) |
| 審判請求と同時に補正された出願 | 補正後の出願を特許できるか | 審査官の前置審査(162〜164条) |
前置審査を設ける趣旨は、補正された出願を元の審査官の知識も活用して効率よく再審査することです。審判長の方式審査の権限まで審査官へ移す制度ではありません。したがって、この請求書について審査官が補正を命じられるという本肢は誤りです。
(ハ)補正却下の当否を、拒絶査定不服審判で争えるか
この肢は正しいです。根拠は特許法53条3項ただし書です。
本肢の場面では、補正を却下する決定とともに拒絶査定がされています。補正の却下だけを独立して争うことと、拒絶査定に対する審判の中で補正却下の当否を争うことを分けてください。
53条3項本文は、同条1項による補正却下の決定に対して不服を申し立てることはできないと定めています。しかし、ただし書は、拒絶査定不服審判を請求した場合のその審判では例外を認めています。
〔表3〕補正却下を争う場面(特許法53条3項)
| 争い方 | 可否 |
|---|---|
| 補正却下の決定だけに独立して不服を申し立てる | 不可(本文) |
| 拒絶査定不服審判の中で、補正却下の当否も争う | 可能(ただし書) |
補正が適法だったかどうかは、どの内容の出願を対象に拒絶査定を判断するかに関わります。拒絶査定を争う手続の中で、補正の扱いも審理できる仕組みです。本文の「不服を申し立てることができない」だけを切り取ると、ただし書を落としてしまいます。
本肢は拒絶査定不服審判の中で争う場合なので、正しい記述です。
(ニ)拒絶査定不服審判の費用は誰が負担するか
この肢は正しいです。根拠は特許法169条3項です。
169条3項は、拒絶査定不服審判と訂正審判に関する費用を請求人の負担としています。「拒絶査定が取り消されたら特許庁が負担する」という規定ではありません。
請求人と被請求人が争う特許無効審判では、169条1項・2項により費用負担を定め、民事訴訟法の規定を準用します。拒絶査定不服審判はこれと異なり、請求人が特許庁の拒絶査定を争う手続です。審判の種類に応じて費用負担の仕組みが分かれています。
〔表4〕審判の種類による費用負担の違い
| 審判 | 根拠と負担の仕組み |
|---|---|
| 拒絶査定不服審判・訂正審判 | 請求人の負担(169条3項) |
| 特許無効審判・延長登録無効審判 | 審決又は決定で定める。民事訴訟法の費用負担規定を準用(169条1項・2項) |
ここで扱っているのは、特許法上の審判に関する費用です。個々の代理人との契約上の報酬などをすべて同じ意味で扱うものではありません。本肢は169条3項の内容に沿っており、正しい記述です。
(ホ)審査手続に重大な欠陥があれば、必ず差し戻すか
この肢は誤りです。根拠は特許法160条1項です。
審査の手続に重大な欠陥があるため、査定を取り消す場面と、取り消した事件を審査へ差し戻すかという判断は別です。160条1項は、査定を取り消すときに、さらに審査に付すべき旨の審決をすることができると定めています。「しなければならない」ではありません。
青本第22版548頁は、査定を取り消す場面の一つとして、本肢のような審査手続の重大な欠陥を挙げています。そのうえで、審判官は事件について自ら審決をする権限を持ち、審査に差し戻すこともできると説明しています。
〔表5〕査定の取消しと差戻しは別の判断
| 判断すること | 整理 |
|---|---|
| 元の拒絶査定を維持できるか | 審査手続の重大な欠陥は、取消しを考える場面の一つ |
| 取消し後、必ず審査へ戻すか | 必須ではない。審判で自ら審決することも、差し戻すことも可能 |
| 差し戻した場合、審査官は取消し判断を無視できるか | できない。その事件について判断に拘束される(160条2項) |
差戻しを選んだ場合に、その取消しの理由となった判断が審査官を拘束することもセットで押さえてください。一方、「差戻しが可能」ということを「重大な欠陥をそのままにしてよい」という意味に広げることはできません。
本肢の誤りは、差戻しを必須としている点です。
根拠資料と確認日
確認日:2026年10月5日。試験日2026年5月17日と確認日現在の特許法をe-Gov法令APIで照合しました。本問の結論に用いる規定は両時点で同じです。青本第22版は趣旨の説明に用い、現行条文の代わりにはしていません。
- 特許法(e-Gov法令検索):53条3項、131条1項3号、133条1項、155条1項、160条、162〜164条、169条3項、178条3項。
- 特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕」:特許法155条(539頁)、160条(548頁)、162条(550〜551頁)、169条(567頁)。
- 特許庁・令和8年度短答式筆記試験の公式正答:特許・実用新案第15問。
【解答】
正答は2(誤っているものは2つ)です。
〔表6〕各肢の正誤
| 肢 | 正誤 | 判断の決め手 |
|---|---|---|
| イ | ○ | 取下げの期限は審決確定まで |
| ロ | × | 請求書の方式の補正命令は審判長 |
| ハ | ○ | 拒絶査定不服審判の中では補正却下も争える |
| ニ | ○ | 169条3項により請求人負担 |
| ホ | × | 審査への差戻しは必須ではない |
5肢のうち、いくつ自信を持って判定できましたか
正答を選べたかだけでなく、根拠条文を思い浮かべて判定できた肢の数で、次に取り組むことを選んでください。
〔表7〕拒絶査定不服審判と前置審査の自己診断
| 自信を持って判定できた肢 | 今の状態 | 次にやること |
|---|---|---|
| 5肢すべて | 取下げの時点、補正命令の主体、差戻しの選択を区別できている | 次の問題へ進む |
| 3〜4肢 | 手続の主体や、「できる」と「必ずそうなる」の違いにあいまいな部分がある | あいまいだった肢だけ、枝別の過去問で潰す |
| 2肢以下 | 審査、前置審査、審判の役割がまだつながっていない | 過去問を回す前に、流れを一度整理する |
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