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2026年度弁理士試験・短答第4問を解説|職務発明の権利帰属と相当の利益

2026年度弁理士試験・短答第4問を解説|職務発明の権利帰属と相当の利益

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目次

【問題文】

【特許・実用新案】4

職務発明に関し、以下の事例について、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。なお、「職務発明」及び「相当の利益」は、特許法第35条第1項及び第4項による。

【事例】甲は、株式会社乙(以下「乙会社」という。)の従業者である。乙会社は、勤務規則により、従業者がした職務発明の特許を受ける権利について、あらかじめ、乙会社の判断により乙会社に承継させることができる旨を定めている。

丙は、株式会社丁(以下「丁会社」という。)の従業者である。丁会社は、勤務規則により、従業者がした職務発明の特許を受ける権利について、あらかじめ、特許を受ける権利が発生した時から丁会社に帰属することを定めている。丁会社は、勤務規則により、相当の利益について定めている。

(イ)甲及び丙は、共同して、発明イを完成した。発明イは、甲及び丙の各々にとって職務発明に当たる。乙会社が丁会社と共同して発明イについて特許出願をする場合、甲は、その特許を受ける権利の持分の乙会社への譲渡にあたり、丙の同意を得なければならない。

(ロ)甲は、単独で、職務発明である発明ロを完成した。乙会社は、勤務規則に従い、発明ロの特許を受ける権利を承継した。その後、甲は、発明ロが職務発明であることを知らない戊に対し、発明ロの特許を受ける権利を譲渡した。戊は、乙会社よりも前に発明ロについて特許出願を行った。この場合、乙会社は、戊に対し、発明ロの特許を受ける権利について対抗できない。

(ハ)甲は、乙会社の従業者である期間中に、乙会社との関係で職務発明である発明ハを完成した。甲は、乙会社が勤務規則に従って発明ハの特許を受ける権利を取得する前に、乙会社との雇用関係を終了し、丁会社の従業者となった。この場合、丁会社が、丁会社の勤務規則により発明ハの特許を受ける権利を取得する。

(ニ)丁会社は、勤務規則における相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際し、従業者及び役員と協議を行わず、策定された基準も開示しなかった。この場合、丁会社の勤務規則により相当の利益を与えることは、必ず不合理と認められる。

(ホ)丁会社は、勤務規則において相当の利益として、丁会社の費用負担による留学の機会を定めておき、丙に対し適用することができる。

1 1つ 2 2つ 3 3つ 4 4つ 5 5つ

出典:特許庁「令和8年度弁理士試験 短答式筆記試験問題」PDF5~6ページ・特許/実用新案第4問。改行・字間を整え、改ページの案内を省略しています。赤字・太字は当ブログによる強調です。

【解説】

情報確認日:2026年9月15日。2026年度の試験問題を対象としています。特許法33~35条について、試験時点に対応する2025年6月1日施行版と、確認日に表示された2026年6月24日施行版の本文に差がないことを確認しています。青本は第22版(2022年)を参照しています。

事例を読むときは、乙会社と丁会社の違いを先に整理する

この問題では、二つの会社の勤務規則が違います。どちらも職務発明を扱っていますが、特許を受ける権利を会社が手にする時点が同じではありません。

会社 問題文の定め 権利の帰属をどう読むか
乙会社 会社の判断により、会社に承継させることができる まず発明者である従業者に発生し、その後、会社が承継する
丁会社 権利が発生した時から会社に帰属する 発明の完成により、最初から会社に発生する

丁会社の仕組みが、特許法35条3項による使用者への原始帰属です。「原始帰属」とは、誰かから譲り受けることなく、初めからその人に権利が生じることをいいます。乙会社のように、いったん従業者に生じた権利を会社に移す「承継」と区別します。

ただし、勤務規則に「承継」という単語があれば、いつでも従業者に原始帰属する、と覚えるのは危険です。青本は、法律上の「取得」には「承継」も含まれると説明しています。本問では、単語一つで判断せず、乙会社について会社の判断で承継できるという事例の設定を読み取ります。

根拠:特許法35条2・3項、青本第22版・印刷120~121ページ(PDF192~193ページ)。

肢イ:持分を譲渡するとき、同意を得る相手は誰か

この肢は誤りです。同意を得る相手は丙ではなく、丁会社です。

甲と丙が共同で完成させた発明でも、発明者の名前と、特許を受ける権利の共有者の名前が一致するとは限りません。本問では、甲側の持分は甲に、丙側の持分は35条3項によって初めから丁会社に帰属します。乙会社が甲の持分を譲り受ける前の共有者は、甲と丁会社です。

特許法33条3項は、特許を受ける権利が共有の場合、持分を譲渡するには他の共有者の同意が必要と定めています。したがって、甲が乙会社へ持分を譲渡するときには、他の共有者である丁会社の同意を得ます。

青本の33条解説は、持分が自由に譲渡されると、共有者が変わることで、残る共有者の持分の価値にも大きな影響が生じ得ると説明しています。そこで、譲渡によって新しい共有者が加わることを、他の共有者が判断できるようにしています。

丙は共同発明者ですが、本問ではその持分の権利者ではありません。「共同発明者の同意」ではなく「他の共有者の同意」と条文の文言を正確に押さえると、混同を防げます。

根拠:特許法33条3項・35条3項、青本第22版・印刷104ページ(PDF176ページ)。

肢ロ:先に譲り受けた会社と、先に出願した第三者

この肢は正しいです。乙会社は、戊に対して権利の承継を対抗できません。

発明ロについては、甲から乙会社への承継が先にあり、その後、甲から戊への譲渡がされています。同じ権利が二重に譲渡された場面です。

特許法34条1項は、出願前の特許を受ける権利の承継について、承継人が特許出願をしなければ第三者に対抗できないと定めています。「対抗する」とは、ここでは、自分が権利を譲り受けたことを第三者に主張することです。

乙会社が先に承継していても、それだけで戊に優先できるわけではありません。本肢では、戊が乙会社より先に出願しています。乙会社が先に出願して対抗要件を備えていない以上、設問の第三者である戊に、その承継を対抗できません。

青本の34条解説は、出願前の承継については適当な公示手段がないため、出願を対抗要件としたと説明しています。会社が譲り受けた日と、出願した日の二つを分けて見ることが大切です。

ここでも乙会社と丁会社の違いが効いています。丁会社のように初めから会社に権利が帰属する仕組みなら、従業者から会社への承継はありません。本肢は乙会社の承継型の設定なので、34条1項の問題になります。青本は、35条3項の原始帰属制度には、このような二重譲渡による権利帰属の不安定さを解消する目的があると説明しています。

なお、34条4項の「出願後の承継」は、原則として特許庁長官への届出が効力発生要件です。本肢の出願前の承継と入れ替えないようにしてください。

根拠:特許法34条1・4項、青本第22版・印刷106ページ(PDF178ページ)。

肢ハ:転職すると、前の会社で完成した発明も転職先へ移るか

この肢は誤りです。丁会社へ転職しただけで、発明ハの権利が丁会社に帰属することはありません。

発明ハは、甲が乙会社の従業者だった期間中に完成しており、乙会社との関係で職務発明に当たると明記されています。丁会社の従業者になる前に、既に完成した発明です。

特許法35条1項は、職務発明を、使用者の業務範囲に属し、発明に至る行為がその使用者における従業者の現在又は過去の職務に属するものとして定めています。転職先から見て、その人が以前に作った発明すべてを取り込む規定ではありません。

丁会社の勤務規則が原始帰属を定めていても、その効力を、入社前に乙会社で完成した本件発明へさかのぼらせることはできません。乙会社がまだ承継していないという事情も、丁会社に取得させる理由にはなりません。

本肢の判断には、①完成時の勤務先、②その会社との職務発明の関係、③既に権利が移ったかを順に確認します。発明ハは乙会社との関係で完成したものであり、丁会社の勤務規則によって取得されるものではない、というのが結論です。

根拠:特許法35条1~3項、青本第22版・印刷119~120ページ(PDF191~192ページ)。

肢ニ:協議も開示もなければ、「必ず不合理」なのか

この肢は誤りです。「必ず不合理」と断定している点が違います。

特許法35条5項は、相当の利益について勤務規則などで定める場合に、基準を作る際の協議、作った基準の開示、利益を決める際の意見の聴取などの状況を考慮し、その定めに従って利益を与えることが不合理と認められるものであってはならないと規定しています。

本肢で協議と開示がされていないことは、不合理性の判断において重い事情です。しかし、条文は、いずれかの手続を欠けばその一点で結論が自動的に決まる、という書き方ではありません。利益を定めて与えるまでの事情を踏まえて判断します。

青本も、「意見の聴取の状況等」の「等」には、不合理性の判断に関わるあらゆる事情が含まれ得ると説明しています。したがって、本肢の二つの事情だけから、どのような場合も不合理になるとはいえません。

これは、会社が協議や開示を省いてよいという意味ではありません。手続の適正さは重視されます。「手続をしなくても合理的」と覚えるのではなく、手続を重視しながら、事情を総合して不合理性を判断すると理解します。

また、相当の利益についての定めが不合理かという問題と、丁会社に権利が初めから帰属するかという問題は別です。青本は、相当の利益の定めが不合理と認められたことだけで、35条3項に基づく権利帰属まで否定されるわけではないと説明しています。

根拠:特許法35条5~7項、青本第22版・印刷122~123ページ(PDF194~195ページ)。

肢ホ:相当の利益は、お金でなく留学の機会でもよいか

この肢は正しいです。会社負担による留学の機会も、相当の利益に含めることができます。

特許法35条4項の文言は、「相当の金銭その他の経済上の利益」です。報奨金のような現金だけに限定していません。

青本は、平成27年改正で「相当の対価」からこの表現に改め、留学の機会やストックオプションなど、金銭以外の経済上の利益も対象にしたと説明しています。会社が費用を負担する留学には経済的な価値があるため、本肢のような定めを置くことができます。

ただし、会社が通常の人材育成として留学させたというだけで、当然に職務発明の相当の利益を与えたことになるわけではありません。青本は、職務発明をしたことを理由として利益を与える必要があるとしています。本肢は、勤務規則に「相当の利益として」会社負担の留学を定めている点を確認します。

逆に、名誉を表すだけで経済的価値のない表彰状などは、それだけでは35条4項の経済上の利益には含まれません。判断の軸は「現金かどうか」ではなく、職務発明を理由として与える、経済的価値のある利益かどうかです。

本肢は留学という利益の種類が認められるかを問うものです。個々の条件や手続まで、どのように定めても不合理にならないという意味ではなく、35条5項の判断は別途必要になります。

根拠:特許法35条4・5項、青本第22版・印刷121~122ページ(PDF193~194ページ)。

【解答】

正しいものはロ・ホの2つで、解答は「2」です。

肢 正誤 判断の分かれ目
イ 誤り 他の共有者は丙ではなく丁会社
ロ 正しい 出願前の承継は、出願によって第三者への対抗要件を備える
ハ 誤り 転職先の勤務規則で、入社前に完成した発明を当然には取得しない
ニ 誤り 協議・開示がないという事情だけで、必ず不合理とは断定できない
ホ 正しい 会社負担の留学の機会も、経済上の利益となり得る

特許庁の公式正答表でも、特許・実用新案第4問の正答は「2」です。

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